今回は競技につきもののケガの話を書いていきたいと思います。ケガをしているとできないトレーニングがあって、結構モヤモヤします。皆さんもそんな経験があるのではないでしょうか。
ケガとの上手な付き合い方……という話を書きたいのですが、自分はあまり上手に付き合えないタイプです。そのあたりの話は後から触れるとして、まずは自分なりの考えからお伝えします。
突発的なケガか慢性的なケガかによってもトレーニングの仕方は変わってくると思います。たとえば、骨折や脱臼、靭帯損傷など、突発的なケガの場合は、痛めた箇所は使えないので、治るまで休む。もしくはそれ以外の部位を鍛えるしかありません。
慢性的に腰が痛い、ヒザが痛いという人の場合には、痛くならない範囲でやることが大事。腰が痛くてスクワットができないのなら、腰への負担が少ないレッグプレスやハックスクワットで脚を鍛えるなどの工夫をします。基本的に痛みが大きい場合は、無理にトレーニングをしないことが一番だと思います。
筋力を落としたくない、筋肉が落ちるのが嫌だからといって、無理してトレーニングをするのは絶対に良くないです。痛いところをかばって変な動きをすると、違う箇所を痛めてしまう恐れもあるので、無理は禁物です。痛めている箇所があるときは、フリーウエイトよりも、自重トレーニングやマシンを使ったトレーニングを有効活用するのも良いでしょう。
自分自身、柔道時代には結構大きなケガをしています。捻挫や骨折など細かいケガは多々あって、大きなケガでは右ヒザの前十字靭帯を2回切っています。あとは棘上筋の断裂も大きなケガで、手術をしていないので今も切れたままです。
前十字靭帯の断裂は競技によっては“選手生命の危機”みたいに言われることもありますが、柔道では結構起こりうるケガで、多くの選手が手術してトップレベルに復活しています。自分が最初に前十字靭帯を断裂したのは社会人1年目のとき。入社してすぐの全日本合宿で断裂してしまい、手術をすることになりました。
実はこのときは、「切れたままでもできるかな」と甘く考えていて、すぐには手術をしませんでした。靭帯が切れたまま練習をしていて、ヒザ崩れを起こすことが何度もあって、結局手術をすることにしたんです。ここで変に足掻いてしまったのが良くなくて、2度目のケガにつながったのかもしれません。
約1年ブランクがあって復帰したのですが、復帰してすぐの試合で再び、同じ右ヒザの前十字靭帯を断裂してしまいました。社会人になって最初の2年はケガ続きだったこともあって、周りからは引退したと思われていたんじゃないでしょうか。
柔道で企業に入っているし、周りの選手たちは練習をして試合で成績も残しているのに、自分は何もできない。会社にも居づらくて、結果を残している同期を見ると、羨ましい気持ちもありました。体を動かせないストレスもあって、精神的に病みそうになることもありました。運動をできないと体だけでなく、心が落ちていきます。それが一番きついです。
そうしたなかでも気持ちを保てたのは、必ず復帰するという気持ちがあったからです。とにかく早く復帰して試合をしたいというのが、リハビリの一番のモチベーションでした。2回目に同じところをケガしたときは、普通なら引退を考えるのかもしれませんが、自分にはその選択肢はまったく頭にありませんでした。ケガで辞めるのはなんかダサいと思っていて、絶対に嫌でした。辞めるにしても、一度治してもう1回チャレンジしてから辞めたいという気持ちでした。ブランクやケガの影響でパフォーマンスが落ちたとしても、必ずもう一度試合に出たいと思ってリハビリに取り組みました。
長い間競技をやっていると誰でも何かしらのケガを抱えていると思います。自分も前十字靭帯を2度断裂しているので、またやってしまうのではないかという怖さは常にあります。ケガの怖さをしっているからこそ、しっかり日々のケアをしながら、これからもやっていきたいと思っています。皆さんもケガをしているときは、くれぐれも無理をしないようにしてください。
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渡辺華奈(わたなべ・かな)
1988年8月21日、東京都出身。7歳から柔道を始め、高校ではインターハイ2位、アジアジュニア優勝などの実績を残し、東海大進学後、1年時に全日本ジュニア優勝を飾る。卒業後、JR東日本へ入社し、オリンピックを目指して競技を続けた。2017年に同社を退社し、格闘家に転身。同年12月3日にデビューを勝利で飾ると29日にはRIZIN初参戦で実力者杉山しずかに勝利。2021年よりアメリカ格闘技団体「ベラトール」に参戦している。所属はFIGHTER’S FLOW