VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? いよいよ「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開幕が目前に迫ってきました。
東京をはじめとする首都圏や福島県では無観客開催を決定。1年の延期を経て一時期は開催そのものが危ぶまれたことを考えれば、それも仕方ないのかなと感じています。一方でオリンピック・パラリンピックという世界的なビッグイベントのホスト国として、日本政府、オリンピック組織委員会の後手後手に回る対応、失態の数々は、残念の一言です。
1年前、大会の延期を決めてから日本は何の準備も対策もしてこなかったことが、開幕直前になって露呈されています。アスリートが世界のトップで闘う練習を余分に1年続けることは、容易なことではありません。世界中の選手にそれを強いておきながら、また、国民にはさまざまな自粛を求めておきながら、国としては1年前から何もコロナ対策の進展を見せることができずに、海外からの観客受け入れを拒否し、国内の人ですら会場には行けない。政府、組織委員会の一連の他人事感丸出しの記者会見を見ていても、「無能」「給料泥棒」と言われても反論はできないでしょう。
無観客開催となったことは、個人的に二つの意味で残念だと思っています。自分が見られないことや、国の損失云々は置いておいて、まずはせっかく日本で開催される世界最高峰の舞台を、未来ある子どもたちに生で見せてあげられないこと。世界で活躍するアスリートは、早くから世界のトップに触れたことをきっかけに、気持ちの変化、モチベーションの上昇によって成長していったという事例が数多くあります。
スポーツをやっている人だけでなく、世界最高峰を目撃することでポジティブな変化のきっかけとなる人も多いはず。そうした貴重な機会が、政府と組織委員会の1年がかりのお粗末な対応によって奪われてしまったことがなんとも残念です。
また、出場する選手にとっても無観客開催は不本意なことでしょう。4度のオリンピック出場を果たした競泳の松田丈志さんは、2016年リオデジャネイロオリンピックの後、岩手国体に出場して引退しています。最後の舞台に国体を選んだ理由は「みんなに自分の泳いでいる姿を見てほしかったから」というもの。「リオは遠くて来られない人も多い。一人でも多くのお世話になった人、応援してくれた人に泳いでいる姿を見せて感謝の気持ちを伝えたいという思いでした」と言いました。
これは他のアスリートも同じです。これまでに取材をしてきた選手の多くが、東京オリンピック・パラリンピックという舞台で、支えてくれた人々や応援してくれる人たちに、間近で自分のプレーを見てほしいという希望を持っていました。そして、精いっぱい闘うことで、恩返しをしたいという思いでした。大会が開催できないよりはマシとはいえ、選手の気持ちを考えるとやるせない思いです。
この1年、自粛、自粛で多くの人が大変な思いをしてきたと思います。「なんでオリンピックだけ優遇されるんだ」と言いたい気持ちもわかります。また、関係者の相次ぐ不祥事で「オリンピック」という言葉に嫌悪感を示す人も増えています。しかし、嫌な気持ちを発信したところで、自分の人生が良くなるわけではありません。制限の中で生きているのはアスリートも同じです。大会期間中は、世界中からやってくるアスリートたちにリスペクトを持って応援してほしいというのが私の願いです。
オリンピックが始まれば、街中でバカ騒ぎをする人が出てくることも予想されます。とにかく関係ない人は余計なことはするなと言いたいです。会場には足を運ぶことはできなくても応援はできます。今はSNSの普及・発展により、そこに応援の言葉を発信すれば選手にも届きます。さまざまな逆境を乗り越えてこの舞台にやってくる選手たちは、きっと心に響くパフォーマンスを見せてくれるはずです。せっかく日本で開催されるのだから、参加した選手にも、世界で見ている人たちにも、“良い大会だった”と言ってもらいたいですよね。せめて大会期間中だけでも不満や悪口の発信はやめて、応援や感謝の発信をする。これができるだけでも良い大会になっていく確率は上がっていきます。
東京2020オリンピック・パラリンピックは、開幕前までの時点では完全に失敗です。だけど、まだ巻き返しのチャンスは残っています。政府や組織委員会はダメでも、選手たちの頑張り、人々のリスペクトとホスピタリティで良い大会にすることはできます。他者を叩いたり蹴落としたりするよりも、他者への尊敬と敬意を示す。そうした人々の姿勢こそがコロナ禍の希望につながるものになると思っています。
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。