見て楽しいサッカーを目指す
天皇杯で「フィジカル旋風」を巻き起こしたいわきFC。このクラブを、S&C(ストレングス&コンディショニング)の角度から捉える本稿、今回は、フィジカル強化を可能にする、クラブの理念と施設について紹介する。
いわきFCのフィジカル強化は、スポーツウェアブランドのアンダーアーマーやサプリメントメーカーのDNSなどを取り扱う、株式会社ドームの全面的な支援によって成り立っている。2015年12月11日、いわきFC運営会社となる「株式会社いわきスポーツクラブ」を設立、当時、福島県社会人リーグ3部に所属していたクラブの運営を引き継いだ。
ドームの協力体制と聞けば、フィジカル強化は容易に理解できるだろう。だが、ラグビーやアメリカンフットボールとは異なる、サッカーである。日本の多くのチームが、「フィジカルは重要」と口にしながら、本格的強化を躊躇い、結局は着手していない競技だ。プロテインの支給の有無以前に、強力な理念なくして、フィジカル強化は、ありえない。
いわきFCのフィジカル強化は、プロクラブとしての将来を見据えた理念から出発している。「フィジカル強化というのは、興行を意識してのことなんです。90分間、前に出て攻め続けるサッカー方が観ていて楽しいですし、勝ち負け関係なくサポーターの皆さんに満足して頂けるのではないかと思います」(マーケティング部チームリーダー、岩清水銀士朗)。その実現に、フィジカル強化が必要という発想である。近年、サッカーの主流は、引いて守りを固め、カウンターで得点、あとは引きっぱなしで時間を消化するというスタイルである。そこに、いわきFCは異を唱えるのだ。
2017年6月、商業施設複合型クラブハウス「IWAKI FC PARK」が完成する。ローカルスタンダードとグローバルスタンダードの交錯を意識する「グローカル」をテーマに、外車販売店、英会話教室を設置。飲食店としては、地ビールや地元の食材を使用する店と、東京や名古屋本店の有名店が並んでいる。なお、一部の飲食店からは、ガラス越しにグラウンドの様子を一望できる設計となっている。
ドームは、有明に「ドームアスリートハウス」というジムを開設しているが、このクラブハウスのジムは、そのいわき版である。パワーラックが4つあり、瞬時に重量変更ができる可変式ダンベルのパワーブロックがいくつも置かれ、説明は省略するが、ファンクショナルトレーニングが可能なKeiserのマシンや、高性能エアロバイクのワットバイクなど、最新鋭の機器が設置されている。
特筆すべきは、ウエイトリフティング用のステーションが4つあることだ。ステーションとは、挙上のために踏ん張る土台であり、バーベルを上から落とすことのできる床である。ラグビーなどの場合、別名「オリンピックリフティング」は、全身の爆発力を養うための当然のメニューであり、もっと多くのステーションを設置しているチームもある。だが、サッカーのクラブのジムにステーションが4つ、しかもフル稼働で活用している光景に、いわきFCのフィジカル強化の本気度が表れている。
なお、2016年は、クラブハウスもグラウンドもなく、あちこちの施設を転々として練習してきた。そんな中でも、ダンベルを持ち運んでまでトレーニングし、着実なフィジカル強化を進めてきた、その取り組みに、フィジカルに対するこだわりが理解できる。
次回は、サッカー選手のフィジカルについて、いわきFCのS&Cコーチである鈴木拓哉の言葉を紹介したい。