10/3(日)、東京・福生市民会館にて開催された第55回全日本ボディビル選手権大会は、ボディビルが阪南大学3年の宇佐美一歩、フィジークが東海大学2年の川中健介の優勝で幕を閉じたのはすでに別記事でお届けした通り。彼らが主役となったのは間違いないが、その一方で、ボディビル部門でステージを盛り上げた(?)存在がいたのを忘れてはならない。
そう、帝京大学4年の高橋明生だ。
関東学生大会後のインタビューでお伝えしたように、2年前までは非常にネガティブで自信がなく、「本音は大会に出たくない」とまで言っていた高橋。ところがその年の全日本学生大会で宇佐美と知り合い、SNSなどを通じて親交を深め、彼をライバル視することで自信を付けて関東学生大会優勝、全日本学生大会準優勝を成し遂げることとなった。
この日のステージ上では、宇佐美と同じステージで並べることの嬉しさを存分に出すように積極的にコミュニケーションをとり、他の選手も含めてたたえ合い、そんな微笑ましい姿が観る者の心を温めていた。
そんな高橋に、大会後のステージで話を聞いた。
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――準優勝おめでとうございます。
高橋 うーん、おめでとう…ですよね。やっぱり1位を目指してやってきたので悔しい気持ちがありますけど、嬉しい気持ちもありますね。
――やはりそれは宇佐美君の存在が。
高橋 そうですね。一緒に戦えたというか、並べたこと。憧れの人と並べたことが嬉しいですね。
――宇佐美君のほうが1学年下ですが、それでも「憧れ」なんですね。
高橋 そうですよ。あんなグレートなボディビルダー……年齢なんて関係ないですよ。あれだけ完成していて、一般でも絶対に通用する選手ですから。それと並んで、肉薄していたと評価されたのは嬉しいです。
――ステージ上では、審査の度に声を掛け合ったり、仲良さそうな姿が印象的でした。
高橋 もう、めちゃくちゃ好きなんですよ。身体はすごいけど、顔はかわいいじゃないですか、いや変なあれじゃないですよ(笑)。自分が勝手にライバルとして認識していただけですけど、彼の背中を追っかけてここまでやってきて、ステージは本当に楽しかったです。
――ちなみに、今後の進路は……?
高橋 そう、まだ就職決まってないんですよ……。誰か、雇ってください(笑)。ついこないだも最終面接で落ちて、メンタルはズタボロになったんですけど、そのぶん脚トレに集中しました。
――今後もボディビルは続けていくつもりですか?
高橋 トレーニングは続けていきます!ボディビルの大会に出場できるような環境なら、また出るかもしれません。
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一方の宇佐美も、高橋については「もうバルクモンスターですから。この大会では、明生くんしか意識していなかったです。あの身体に勝てたのは嬉しいです」と話す。2人は東京と大阪と距離は離れているものの親交を深め、学生らしいライバル関係を築いてこの日に同じステージに立つことができたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大し、非常に難しい状況でありながらも、大会が無事に開催されたからに他ならない。
学生が出場し、学生が運営する大会であるために拙い部分が生まれるやむをえない。特に今大会は、昨年度の大会が中止なったことで運営ノウハウの引継ぎが満足にできなかった部分もあり、多くの困難があったと聞く。そのような中でも、OBらの協力を得ながら準備を進め、選手全員がPCR検査を実施できる環境を整えるなど、見事な運営で大会を進行していたのは間違いない。
何よりも、学生がつくり上げる大会だからこその魅力が運営面にもステージ上にもあり、会場に集まって選手たちを見守った仲間たちも含め、ここに携わった人たちの愛が溢れる大会であったのは多くの人が感じているはず。表彰式で、2位となり涙ぐむ高橋に「うんと泣け」と、自身も選手時代に準優勝を経験した臼井オサム審査委員長がかけた温かい言葉も、そんな愛の一つだ。
「やっぱり、ガクボっていいよね」
会場で誰かがボソっと呟いていたその言葉に、今大会の全てが詰まっていると言えるだろう。大会を運営した関東学生ボディビル連盟長の藏下隼人さん、長時間にわたる大会の司会・進行を務めた松村実紗さん、広報担当として我々との連絡役を務めた渡辺美紀さんをはじめ、大会運営を行っていただいた方々に、私自身もいちガクボファンとして感謝の意を伝えたいと思います。このような素晴らしい大会をつくり上げていただき、本当にありがとうございました。
また来年、皆が笑顔になれる大会が開かれることを願っています。
文・写真/木村雄大