猫ひろし密着取材① 速く走るためのトレーニングとは




カンボジア代表としてリオオリンピックに出場した猫ひろしさんが、東京・自由が丘の加圧トレーニングジム「DEUX」でトレーニングを行うようになったのは2010年の8月ごろ。猫さんが初めてフルマラソンで3時間を切り、2時間55分という記録を打ち出した直後のことだった。ここでは、そのトレーニングに密着。猫さんの走りの秘密に迫った。

指導するのは1994年アジア大会、1995年世界陸上競技選手権日本代表などの実績を持つ陸上のエキスパート、伊藤喜剛トレーナー。猫さんが実施しているのは、ベルトを巻き、血流を制限した状態で行う「加圧トレーニング」。まずは座った状態で専用の加圧ベルトを巻き、圧を入れて、抜いてを繰り返す。

「圧を入れて、抜いてを繰り返すことで血管が拡張し、座っていてもウォーミングアップをしているような状態になります。軽いジョギングをしているような状態をつくりだし、それからトレーニングに入るんです。代謝がいい人はこれだけで汗をかきます。加圧トレーニングは血流を制限した状態で行うので、指導の際には細心の注意を払います。ベルトを巻いてすぐトレーニングをするのではなく、まずは体をトレーニングに入れる状態にしていくのです」(伊藤トレーナー)

続いて、腕を真横に開いてグーパーを繰り返す。




「手のひらが赤くなっていると、血流がいい状態にあるということです」(伊藤トレーナー)

準備が整ったら、まずは上半身のトレーニング。腕にベルトを巻いた状態でラットプルダウンを30回4セット。インターバルはわずか15秒。


「軽い負荷でトレーニングをすると、持久力の筋肉である遅筋線維が動員されます。ただ、遅筋線維は酸素をエネルギーにしています。血流を制限することで血中酸素が入りづらい状態になっているので、軽い負荷でも速筋線維が使われるんです」(伊藤トレーナー)

「僕は筋トレをほとんどやったことがなかった。自宅で軽く腕立て伏せや腹筋、背筋をやる程度でした。トレーニングを専門的に教わったのは伊藤先生が初めてです」(猫さん)

続いてサイドレイズ。こちらも30回を4セット。使用しているダンベルはたったの2kgであるが、猫さんはこの表情。


「速筋が動員されることで血液内の乳酸濃度が高くなります。するとレセプター(受容体)が脳下垂体に対して『乳酸が出ている』というメッセージを出して、メッセージを受け取った脳下垂体は成長ホルモンを分泌する。脚よりも先に上半身のトレーニングを行ったのは、脚よりも腕のほうが脳に近い位置にありますよね。だから、早く成長ホルモンが分泌される。上半身のトレーニングで成長ホルモンを分泌させてから、脚のトレーニングに移っていきます」(伊藤トレーナー)

「シンドイです、本当に(苦笑)。でも、伊藤先生は一生懸命、メニューをつくって指導してくれる。だから、トレーニングを休みたいとは思わないです。結果に結びついているので、このトレーニングを続ければ速くなれるという信頼感はあります」(猫さん)

上半身のトレーニング後は、ベッドに横になり、脚にベルトを巻き、圧を入れて、抜いてを繰り返す。すると、さきほどまで苦悶の表情を浮かべていた猫さんがウトウト……。


「今は上半身のトレーニングを行って、成長ホルモンが分泌されている状態にあります。成長ホルモンは、就寝1時間後くらいに分泌されるホルモンなんです。だから、圧を入れて、抜いてを繰り返している間に寝てしまう人は多いです」(伊藤トレーナー)

次はいよいよ下半身のトレーニング!

取材/藤本かずまさ 撮影/神田勲

<取材協力>
加圧トレーニングジム「DEUX」