5月13日(現地時間)、ロンドンで行なわれた『Bellator LONDON』にて、デニス・キーホルツ選手に三角絞めで一本勝ちすることができました。日本から応援いただいた皆さん、本当にありがとうございました。今回のコラムでは試合のことを振り返っていきたいと思います。
ロンドンへの移動はアメリカよりもだいぶ大変でした。まず11時間くらいかけてドバイまで行って、トランジットが約3時間。そこからふたたび飛行機に乗って7時間くらいかけてロンドンへ。家を出てからロンドンのホテルに着くまで、丸一日以上かかりました。減量しながらというきつさはあったものの、機内食を低脂質、低糖質のものに変更できたので、軽く食べることができたのは良かったです。
前回苦しんだ減量も、今回はうまくいったと思います。減量期間を長くとっていたこともありますが、現地に入ってからの環境もこれまでより恵まれていました。なんと言っても一番良かったのは、湯舟があったことです。動いて半身浴して、また動いて半身浴して…ということを繰り返していたら、スムーズに体重が落ちました。
もう一つ良かったのは、ホテルに缶詰めではなかったこと。今回は外出が許可されていたので、ホテルの近くを散歩して気分転換しながら、カロリーを消費することができました。ホテルのすぐ隣にはアウトレットがあって、買い物に行くと、前々から気になっていたものを発見!「極度乾燥しなさい」と書かれたこのTシャツ(写真)は、イギリス発祥の「Superdry」というブランドのもので、日本には売っていないんです。
日本に来る外国人選手が着ているのを見て「なんだろうな?」と気になっていました。見つけた瞬間にテンションが上がってしまい、今回はTシャツ3~4枚とパーカー、スパッツを購入。このようにリラックスしながら体重を落とせたのが、すごく良かったと思います。
試合に関しては今までに感じたことがない怖さがありました。キーホルツ選手は同じ階級では一番のストライカーで、「前回と同じ負け方をしたくない」「怖い」という不安な気持ちがあったのは事実です。カードが決まってから試合までの期間も長かったため、寝ても覚めても試合のことばかり考えていて、ずっとストレスを感じていました。
現地に入ってからもかなりナーバスになっていました。試合の日は友達からもらったLINEのメッセージにも、全然返事をすることができず、SNSも見ることができませんでした。そんな弱気では試合ができないので、「ここで引いたらファイター失格だ」と腹をくくって入場したら、そこで一気にスイッチが切り替わる出来事がありました。
今回は両親が現地まで応援に来てくれていて、花道のそばの席で日の丸を持っていると聞いていました。両親を探そうと思って花道を歩いていたら、すぐに日の丸が目に入ってきました。当然、両親だと思って見てみると、日の丸を持っていたのは知らない外国人の方だったんです。「誰!?」となって、一気に緊張がほぐれました(笑)。その外国人の後ろからお父さんの「頼むよ!」という声も聞こえて、そこでバチっとスイッチが入った感じです。
今回の試合に関しては、対戦相手が地元の選手であり、自分はアンダードッグのような扱いだと感じることがありました。相手選手がたびたびインタビューをされていたのに対して、自分はゼロ。控室も相手は一人部屋なのに、自分は2人部屋でした。指定された控室に入ったら、でっかい男子選手が寝転がってたんです(苦笑)。自分とセコンドの上田さんは、端っこで小さくなって座っていました。
こうしたアウェイの洗礼もあって、「噛ませ犬じゃないぞ!」という気持ちがあったので、それが試合で爆発したと思います。試合前は対戦相手の幻想を膨らませすぎていて、「めちゃくちゃ強い」と思い込んでいました。だから柔道だけでは通用しないと思ってレスリングもすごく取り入れて、バックコントロールの練習もたくさんしてきました。試合ではダメでしたけど、打撃も一生懸命に練習しましたし、そうした積み重ねの成果は確実にあったと思います。実際に試合が始まると、「あれ?」と思うくらい、相手の強さをあまり感じませんでした。
グラウンドになってからはすごく冷静でした。じつは三角絞めに入ったとき、普段やっている得意な脚の組み方ではなかったんです。「これは極められないかも」と思いつつも、原理は一緒だからと考えて絞めてみたら、うまく極まってくれました。
MMAで初めて負けた後の試合だったので、今回の勝利は本当に特別な勝利になりました。これでランキングも2位に上がり、タイトルマッチも見えてきたと思います。まだ噂段階でありますが、12月にベラトールが日本で大会を開催するという話も耳にします。最近はずっと海外で試合をやっていて、なかなか皆さんに生で試合を見てもらえる機会がありません。もしもベラトールの日本大会が実現するなら、そこでタイトルマッチをやりたいという思いがあります。
タイトルマッチに挑むためには、もっともっとレベルアップしなければいけません。いつ次の試合が決まってもいいように、自分のできることをもっと増やす、地力を上げる練習に取り組んでいきたいと思います。
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渡辺華奈(わたなべ・かな)
1988年8月21日、東京都出身。7歳から柔道を始め、高校ではインターハイ2位、アジアジュニア優勝などの実績を残し、東海大進学後、1年時に全日本ジュニア優勝を飾る。卒業後、JR東日本へ入社し、オリンピックを目指して競技を続けた。2017年に同社を退社し、格闘家に転身。同年12月3日にデビューを勝利で飾ると29日にはRIZIN初参戦で実力者杉山しずかに勝利。2021年よりアメリカ格闘技団体「ベラトール」に参戦している。所属はFIGHTER’S FLOW