“男子プロレス”を展開する女子プロレスラー【マッチョ編集長のマッチョコラム第26回】




これはどんなスポーツにおいても当てはまることなのだろうが、プロレスというジャンルにおいても、誰の指導も受けたことがないという選手はひとりも存在しない。天才と称されるプロレスラーであっても、デビュー前には先輩選手からの直接的な指導は絶対に受けている。その先輩選手も、さらに上の世代のレスラーたちの影響下でプロレスを学んでいるはずだ。

日本のプロレスには、いくつかの系譜が存在する。大きく分けると、アントニオ猪木が興した新日本プロレスの系譜、そしてジャイアント馬場の全日本プロレスの系譜のふたつがある。

プロレスには伝統芸能的な側面があり、先輩選手から教わったもの、受け継いだものはそのレスラーのアイデンティティーを形成する上での重要な要素となる。技術的な面においても、例えばヘッドロックの取り方やロープワークといった細かな部分にも新日本らしさや全日本らしさなど、系譜の違いは現れるものだ。

その新日本プロレスや全日本プロレスなどとは異なる進化を遂げてきたのが「女子プロレス」。新日本プロレスも全日本プロレスも、力道山が戦後にアメリカより“輸入”したプロレスにルーツがある。

しかし、日本の女子プロレスは力道山が持ち込んだアメリカのプロレスとは別のルートをたどって発展してきた日本オリジナルのジャンル。“女子プロレスの団体”が存在するのは、おそらく日本だけ。同じ“プロレス”であるのだけれど、男子のプロレスと女子のプロレスとでは、相手との組み方、投げ方、倒し方など技術面にかなり大きな違いがある。そう考えると、この国のプロレスにはアメリカから渡ってきた「男子プロレス」と日本独自の「女子プロレス」、ふたつの流れがあることになる。

ややこしい表現になってしまうが、才木玲佳は男子プロレスを繰り広げている女子プロレスラーである。性別は女性なのであるが、展開しているプロレスは男子のもの。技の入り方、相手との距離感、組み方、立ち上がり方などはすべて男子プロレスのそれ。そこには女子プロレスの影響は一切感じられない。

女子プロレスラーのなかで、男子のプロレスをイチから学んでいる選手はそれほど多くはいない。じつは才木玲佳は世界標準のプロレスを身につけている貴重な女子プロレスラーなのである。