理想は「見せる」よりも「動ける」身体。50歳を超えても人は変わることができる【My Training Life/辻宗志】




アスリートから一般のトレーニーまで、それぞれのトレーニングとの向き合い方を紹介する連載「My Training Life」。今回登場するのは、2022年9月のSuper Body Contest(SBC)FUKUOKA 08のSBC部門を制するなど、多くの優勝実績を持つ辻宗志さん。50歳を超えても“カッコイイカラダ”を保ち続ける彼の、身体づくりの信念とは?

妻がどんどん離れていく危機感

さわやかな笑顔に、人を安心させるような優しい声。服を脱げば、たくましく鍛え上げられた大胸筋と、ボコボコに割れた腹筋を披露する――。「ダンディズム」という言葉がぴったりな辻宗志さん(51歳)だが、30代の頃は、まさにどこにでもいるような、ぶよぶよ身体のサラリーマンだったという。

「当時は95kgくらいにまでなってしまって。妻は3m以内には近づいてこないし、口も聞いてくれないくらい、どんどん遠ざかっていったんですよ(笑)。あるとき、赤ん坊だった娘を連れて小川のほとりに行ったのですが、娘を抱えてピョンと川を飛び越えればいいものを、『これは無理だ』と思って飛ぶのを諦めたんです。そのときの妻のため息と表情、その頃からの私を見る冷たい視線は今でも忘れられません」

太っていた時期の辻さん。今では考えられないぽっこりお腹

もともとは器械体操に力を注いでおり、奥様とも競技での縁から結婚。軽やかに飛んで跳ねる辻さんのことを知っているが故に、カッコよさを失った夫に対する落胆は計り知れなかったのだろう。

「1日に数分だけでもいいので、身体を鍛え直そう……」

奥さんに振り向いてもらうため、情けない自分から脱却するため。辻さんは決意を持ってトレーニングをスタートした。

当初は自重を中心にした自己流トレーニングのため、なかなかうまくいかない日々は続いたものの、徐々にダイエットは成功。40代になる頃にはトレーニングも本格化していった。その中で出会ったトレーナーがベストボディジャパン出場者ということもあり、辻さんも誘われて出場すると、2014年の福岡大会でいきなりグランプリを獲得。そこから、身体磨きはさらに加速していくことになった。

「身体が絞れていくごとに、嫁さんのボディタッチも増えました。どの筋肉が好きかと聞けば、『肩の筋肉』と答えてくれたり。今は逆に『やりすぎ』と言われますけどね(笑)」

「見せるための身体」は必要としていない

「人に見せられる」身体を手に入れて以降、サマースタイルアワードやSBCなどのコンテストへ出場して実績を重ねてきた辻さんだが、その身体づくりには一つの幹となる考えを持っている。それは、「見せるよりも動かすための身体をつくる」ということだ。

「今はサラリーマンを辞めてトレーナーとして働いていますが、教えるのも自分がやるのも、身体の機能性を高めるトレーニングを大切にしています。要は、ベンチプレスをやるにしても、筋肉を大きくするのを目的にするのではなく、例えば水泳をやっている方なら速く泳げるようになるためのトレーニングにします。
コンテストで評価されるシンメトリーな身体というのは、基本的にどのスポーツでも役に立つものであるという考えが根底にあります。あくまでスポーツなどで動かすための身体が先にあり、その結果として左右対称のバランスの良い身体になっていき、それが評価されるという順番です。もちろん、大会に向けた減量だけは普通のスポーツにはないものなので、その点だけは異なりますが」

「動ける身体」の延長線上にコンテストで評価される身体がある(左が辻さん)

ボディコンテストという大きなくくりで言えば、ボディビルやフィジークといった競技性の高い大会も数多くあるが、その中で辻さんがSBCやサマースタイルアワードを選んで出場する理由もそこに起因している。

「私自身はパルクールという競技をやっており、身体を動かす機会が多くあります。なので、『動ける身体』が自分の理想としてあり、そのためにつくった身体を評価していただける大会を選んで出場しています。もし、より大きな筋肉が評価される大会に出ることになればそのためのトレーニングもするかもしれませんが、その必要がなければ、『見せるための身体』をつくる気持ちはないですね」

アクロバティックなスポーツ「パルクール」にも趣味として取り組んでいる

50歳もまだまだ人生若輩者

明確な理想を持ってつくり上げた身体が評価され、その結果、コンテストでも勝てる。それだけでも大きなモチベーションにはなるだろうが、単なる勝ち負けだけがコンテストの醍醐味ではない。その良さがあるからこそ、辻さんはコンテストのステージに立ち続けている。

「コントストの一番良いところは、仲間が増えることですね。大会に出れば、新しい人と出会うこともあれば、再会することもある。そういった楽しみやモチベーションがなければ、辛い減量をすることもないでしょう。あとはトレーナーという仕事をしているからというのもありますが、『50歳を過ぎてもこれだけ変われるんだ』ということを証明し続けられるのも大きいですね。自分が経験したことを、信ぴょう性と自信を持ってお客様に提供できますから」

選手としての目標は、当然日本一。昨年も福岡大会でトップに立ち、全国大会であるSBC FINALに出場してSBC部門KING(50歳以上)クラスで優勝を果たしたが、惜しくも総合優勝(Champion of the show)はならず。「今年こそリベンジ」に燃えているが、トレーナーとして、あるいは50歳を超えた人生のベテランとして、大会に出ることで伝えたいメッセージも熱く持っている。

たくさんの仲間に出会えること、それがコンテスト出場の良さ

「本当の意味で一生付き合っていかなければいけないのは、家や車でもなく、奥さんでもなく、自分の身体ですよね。なので、自分の身体を一番大事にしたうえで、目標を持ってほしいと思っています。そのきっかけとしてボディコンテストに出場するのは、素晴らしい経験になるでしょうから。先日のSBCでは63歳の方が、サマスタでも73歳の方が出ていて、とても輝いていらっしゃった。私も50代とはいえ、まだまだ若輩者の人生の後輩です。そういう人になりたいという目標を持っているので、同年代の方にも、ぜひそういう目標を持って、理想とする身体づくりをしていってほしいですね」

トレーナーとして、一人の男として、辻さんはこれからも自身の理想を求め、その大切さを伝えながら充実のトレーニングライフを歩み続けていく。

取材・文/木村雄大

「自分も楽しみ、皆さんにも楽しんでもらう」気持ちで辻宗志が福岡を制して日本一へ前進【Super Body Contest FUKUOKA 08】