フィットネス創世期にインストラクターを目指す
――まずはキャリアのスタート地点からお伺いします。
「私はダンサーになろうと思い、プロフェッショナルと呼ばれる方たちが集まってくるようなお稽古場に通っていましたが、19歳から踊りを始めたため、骨格がすでに完成されてしまっており、パフォーマンスをするには、まずはダンサーとしての骨格からつくらないといけない状態でした」
――想像していた以上に厳しい世界だったと。
「当時の日本ではショービジネスがまだ確立されていなかったので、ダンスだけで食べていくは至難の業だということを改めて実感しました。
才能がないことにすぐ気がついて途方に暮れていたときに、健康志向の女性ばかり集まっているサークルで指導をしてみないかという提案をダンスの仲間から受けました。当初は何から教えたらよいのかわからない状態でしたが、私が稽古場で習っていることをそのまま指導してみればいいのではないかと思い、音楽を使って体を動かす楽しさ教えることにしました。私のクラスは産休に入られる先生から引き継いだものだったのですが、教え始めたばかりの私に対して参加してくださる奥様たちは一つひとつ感心して下さいました。こんな私でも喜んでもらえるのがうれしく、この経験から教えるプロになりたいという気持ちが芽生え、本格的な指導活動を始めました」
――フィットネス創成期に本物を知り、それを持ち帰ったのですね。
「エアロビクスの指導を始めて、数年のうちにお弟子さんを十数名抱えることになり、スポーツクラブと契約をすることになりました。当時はハイインパクトの全盛期ですから、とにかく私たちが考えなければいけなかったのは、ケガや故障をおこさない指導でした。動きが過激であればあるほど喜ぶお客様が増えていった中で、私が感じたのは、『人は思うほど動けない』ということでした。私はダンスでは動ける人間ではなかった。だから動けない人がどうすれば動けるようになるかに意識を集中させていったときに、『人はこんなに動けないのか』という事実に直面して悩みました。
そこで考えたのです。踊り手を目指していた私が稽古を始めたときに、運動が得意だった自分がなぜ踊れないのか。骨が動かないということが、私の中のなかには弱点としてありました」
――弱点、ですか。
「人にはそれぞれできるできない、好き嫌い、得手不得手などがあります。コーヒーをすすめられても『自分はコーヒーは苦手』という意識がある人は『結構です』となる。それと同じで、腰と股関節周りが固いということに、私は感覚レベルでのコンプレックスがありました。だから、先生からは『ライブをたくさん見なさい』というアドバイスを受けました。『演劇でも演奏でも、たくさんのライブを見て養われた感覚がお前たちを育てる』と教えていただきました。
素晴らしいダンサーの演技の数々を見て、脳裏に焼き付けて稽古場に臨むと、白鳥を見た後に自分がアヒルだと気づく。股関節の固いアヒルでした。そこから私は、しだいに骨盤に目を向けていくようになったのです」
――骨盤や肩甲骨の重要性が訴えられるようになったのは近年になってからです。
「骨盤の中心に仙骨という骨があります。この骨が非常に重要な骨なのですが、運動を積極的にやっている人たちは、この仙骨の可動域が高いはずです。運動していない人でも、自然界の営みとして呼吸活動をしている限り動いている骨です」
――人にとって重要な骨なのですね。
「実はこの仙骨と頭部の骨である後頭骨は形状としては非常に酷似しています。この仙骨と後頭骨は頸椎と脊柱を介して常に双子のように呼びかけあっています。
大腸や膀胱、生殖器官を乗せている仙骨と、脳を下から支えている後頭骨。
ここの後頭骨の前側に小脳や間脳や脊髄、つまり生命体をコントロールしている器官があります。
そして、仙骨と後頭骨をつなぐ脊柱には脳と脊髄、神経の束があり、その周りに脳脊髄液という重要な体液が流れています。
この脳脊髄液が人間の細胞に栄養を与えているような体液で、その脳脊髄液の生産と循環がうまくいっているときに、人間は幸福感や感謝を感じやすいといわれています。
長時間の悪い姿勢、運動不足によって脊柱の動きが鈍くなっていたり、あるいは、過度なトレーニングによって脊柱に支障が出た場合、その脳脊髄液を動かすための仙骨と後頭骨の連動動作が少なくなり、これが現代人の身体に悪影響を及ぼしているのです」(つづく)
ピルビス(Pelvis)=骨盤、ワーク(Work)=呼吸体操の造語になります。 骨盤と後頭骨の連動運動からなる骨盤呼吸法と、その呼吸法を利用した全身の骨格と筋肉の調整のための一連体操を『ピルビスワーク』(骨盤呼吸体操)といいます。一般社団法人日本ピルビスワーク協会
URL:http://www.japan-pelviswork.jp/