自転車通勤で気をつけるべきこと
1996年から自転車通勤を始め、引っ越して距離が変わっても20年以上それを続けている疋田さん。その間、交通事故には一度も遭っていないというのがスゴいところです。その秘訣についても訊いてみました。
「私が人一倍怖がりということもあるかもしれませんが、とにかく無理をしない。そして交通ルールを守る。この2点が何より大切だと思います。雨や雪が降ったら無理しないで電車通勤に切り替える。濡れるのが嫌だというのもありますが、事故の確率が上がりますので。交通ルールでいえば、左側通行と信号は絶対に守る。これだけでも事故の危険はかなり減ります。少しずつ減りはじめてるとはいえ、逆走している自転車は本当に危ないのでやめていただきたいと思います」
そのほかにも、クルマからの視認性を上げるため、前方を照らすライトに加えて、後方にアピールするための赤いフラッシャーライトも2つ装着しているという疋田さん。「ちょっと暗くなったくらいの時間帯が危ない」と、早めの点灯をすすめています。また、事故防止の観点からは、最も効果的なのがヘルメットをかぶることだとか。
「自転車による死亡事故の65%が頭部の損傷だというデータもありますから、ヘルメットをかぶることでその危険性を下げることもできますが、実はクルマへのアピールの効果も高い。速そうなヘルメットをかぶっていると、ドライバーのほうも『あいつは速そうだ』『分かってる自転車乗りだ』と思ってくれます。自転車が歩行者ではなく、原付のほうに近づくんですね。車道を走る一員と認められやすくなると言ってもいいでしょう。そういう意味で、ヘルメットは恥ずかしがらずに速そうで目立つものを選ぶといいと思います」
もう一つ、安全のために疋田さんがおすすめするアイテムがバックミラーです。自転車では、なかなか一般的にならないが、安全のための効果は高いとのこと。
「後方確認の際、きちんと振り返るのは基本なのですが、その前に後から来ているクルマとの距離感などを掴んでおくと、ドライバーとのアイコンタクトもしやすいんです。振り返ったらいきなり間近にクルマが来ていたりするとビックリする。前もって距離感などを把握してから振り返ったほうが、ドライバーとのコミュニケーションもしやすいんです」
ドライバーにこちらの意志を伝えるためには、手信号も積極的に使っているそうです。
「右折とか左折の度に全て手信号を出すわけではないですが、絶対にやったほうがいいのは駐車車両を追い越すために右側に出る時。後方のクルマに『右に出るよ』『ちょっと待ってて』と右手で示すだけで効果は大きいです」
そのほか、「段差を越える際は斜めに入らず、できるだけ直角に」「濡れたマンホールや鉄板の上は滑るから注意」「雪が降った次の日は、日陰の部分が凍っていることが多い」など、長年の経験の中で身に付けた注意すべきポイントも教えてもらいました。疋田さんによれば、住宅地などを抜ける狭い生活道路も危険が多いとのことです。
「そういう道は広い幹線道路に比べると事故率が2倍高いんです。子どもの乗った自転車が飛び出してきたり、逆走してきたりすることも多い。クルマの多い幹線道路のほうが危ないイメージがありますが、実は逆なんです」
万一のために保険に入っておくべき
「事故が起きた場合に備えて、保険には絶対に入っておいたほうがいい」と力を込める疋田さん。自身は20年以上無事故を続けていますが、自転車は事故の被害者だけでなく、加害者となる可能性もあるため、保険は入っておくべきだとのこと。
「過去に兵庫県では少年の乗る自転車が女性にぶつかり、植物状態にさせてしまう事故がありました。裁判の結果、少年の母親に1億円近い賠償命令が出された。自転車事故の賠償額も高額化しているんです。自転車には強制的に入る自賠責保険がありませんから、自分で保険に入っておく必要があります」
現在、自転車向けの保険は、au損保やセブン-イレブンやファミリーマートなどのコンビニで入れるものなど、選択肢も充実してきている。
「クルマに乗っている人なら、一番お得なのは自動車保険に自転車用の特約を付けることだと思います。年間1000円プラスするくらいで家族全員をカバーできる。au損保は月々370円~で、コンビニで入れるものは年間3000~4000円くらいです。それくらいであれば、入っておくべきだと思います」
自転車通勤はリスクを避けてこそ、その楽しさや効能を享受できるもの。安全にはくれぐれも気を付けたいところです。
次回は、自転車通勤におすすめの自転車などを聞きます。
取材・文/増谷茂樹
疋田智(ひきた・さとし)
テレビプロデューサーという本業に加えて“自転車ツーキニスト”としても活動。NPO法人自転車活用推進研究会理事、学習院大学生涯学習センター非常勤講師も務める。自転車に関する著書に『自転車ツーキニスト』(光文社)、『自転車生活の愉しみ』(朝日文庫)、『自転車の安全鉄則』(朝日新書)、『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)『電動アシスト自転車を使いつくす本』(東京書籍)など多数。メールマガジン「週刊 自転車ツーキニスト」でも自転車通勤にまつわる情報を発信している。