「僕は一生懸命、野球をやりたいです。野球をやらせて下さい」(ダルビッシュ有)【名言ニュートリション】

「オクトーバーフェスト(10月の祭典)」と呼ばれるワールドシリーズの熱狂が収まった11月14日、フロリダ州オーランドでMLBのGM会議がおこなわれた。各球団ともすでに来季の構想を念頭に会議に臨んでおり、話題はやはりフリーエージェント(FA)となった有力選手の動向になる。

MLBの公式ページで注目するべきフリーエージェント選手トップ25が発表された。その第1位に輝いたのがダルビッシュ有(ドジャース)だ。今季のFA市場では、先発陣が手薄と言われている。先のMLBの記事でも、ダルビッシュの次には、10位以内では8位にグレッグ・ホランド(ロッキーズ)が入るだけだ(2位に北海道日本ハムファイターズの大谷翔平が入っている)。

ダルビッシュの魅力は、その三振率の高さだ。MLB公式サイトのMatt Kelly氏の記事によると、750イニング以上投げている先発投手の中では29.7%と歴代最高の奪三振率だ。まずダルビッシュがどこの球団に行くかが、今年のストーブリーグの注目になる。

ダルビッシュのキャリアの原点は、大阪府羽曳野市にあるオール羽曳野というボーイズリーグのチームだ。関西、特に大阪は硬式野球が盛んだが、その理由のひとつはボーイズリーグという硬式野球組織が充実していることにある。ボーイズリーグは、南海ホークスの監督だった鶴岡一人氏の肝いりで始まった。ドジャースの前田健太、ヤンキースの田中将大もボーイズリーグの出身である。

ダルビッシュは、ボーイズリーグ時代から頭角を現していた。中学校3年生時にエースとして全国大会ベスト8、世界大会3位という成績を残しているが、頂点に立っているわけではない。それはボーイズリーグの特別ルールに理由があった。リーグでは、投手保護の観点から、投手が1日に登板できるのは、7イニングまで(小学生は6イニング)と決められている。つまり、1試合に投手を2人以上登板させなければならないのだ。

「有が先発して抑えても、その後が打たれて負けることが多かったね」と話すのは、当時指揮を執っていた山田朝生監督だ。小学生の時から、身長は同級生よりも頭ひとつ高く、身体能力は優れていた。彼の投げるスライダーは、中学時で「高校生でも打てない」と言われたほどだ。それだけに、山田監督をはじめとしたコーチ陣は、彼を素直に育てることに腐心したという。これだけの素質がある選手をきちんと次のステップに送り出す責務を彼らは感じていた。しかしダルビッシュの振る舞いは、目立つようになっていった。マウンド上での相手打者や審判への振る舞い、チームメイトとの接し方など、自己中心的な行動が多く、少しずつ孤立していった。

ある時、ダルビッシュは自分の親に向かってぞんざいな口の利き方をした。それを見た、山田監督はそれまでにないくらいに大きな雷をダルビッシュに落とした。その場で即帰宅を言い渡された。オール羽曳野は、何よりも礼節を重んじるチームである。エースであっても、それを違反する選手を許すわけにはいかないのである。事が起こって1週間ほどしてから、ダルビッシュが監督室を訪れた。監督室は、河川敷にあるグラウンドのバックネット裏にあるのだが、そこからは選手の出入りがよくわかる。そろそろ来るだろうと思っていた監督は、ダルビッシュがグラウンドに入るのを見ていたという。監督室の扉をノックして入ってきて、ダルビッシュは以下の言葉を口にした。

「僕は一生懸命、野球をやりたいです。野球をやらせて下さい」

Fotoliaー© Ed Oh

彼なりに絞り出した謝罪の言葉だった。監督は、このチームで野球をするには、グラウンドに掲げている選手心得を守ることができるかと彼に尋ねた。その選手心得とは、礼儀、感謝、思いやりの心である。マウンドからいつもこの心得を見ていた彼はかみしめるように「できます」と答えた。それを聞いて監督は、ダルビッシュに練習に参加することを許した。それから彼は、日常の生活態度も改めて野球に専念するようになった。それがボーイズリーグの全国大会ベスト8につながるのだ。

現在、ダルビッシュは31歳。次の契約が彼のキャリアで最大で最後の契約になるだろう。彼がここまでたどりついた原点には、羽曳野にある河川敷のグラウンドでの言葉があるのだ。

文・大西鉄弥