関節を痛めない正しいフォームとは【金哲彦の教える“正しい走り方”⑤】

フィットネスに親しんでいる人や、過去に部活などで運動をしていたことのある人のほとんどが“自分は走れる”と考えているのではないでしょうか? でも、プロのコーチから見ると、多くの市民ランナーは“正しく走れていない”ようです。そこで、市民ランナーからオリンピックを走るアスリートまで、幅広いランナーを指導するプロランニングコーチの金哲彦さんに“正しい走り方”についてレクチャーしてもらいます。

“体幹で走る”ことが重要

この連載で何度も書いている“正しい走り方”とは、簡単に言えば“体幹を使って走る”ということです。“体幹を使う”というのには大きく分けて2つの意味があります。1つは着地の衝撃を体幹で吸収するということ。もう1つは体幹で生み出した推進力を使って走るということです。

1つめから説明しましょう。多くのランナーが足を地面に着く時に体幹より前に着地しています。このフォームだと、着地の衝撃を主に脚の筋肉と関節だけで受け止めることになり、とくにヒザ関節を痛めやすい。ランニングをはじめるとヒザの痛みを訴える人が多いですが、原因の多くはこの着地のしかたにあります。

足を前方に着くフォームはヒザ関節を痛めやすい

体幹を使って衝撃を受け止めるためには、着地の際に足を体幹の真下に着き、足から体幹までを1本の棒のようにすることがポイントです。こうすることで、着地の衝撃を体幹を中心とした体全体で吸収することができます。
体を1本の棒のようにして着地すると衝撃を体幹で吸収できる

2つめの推進力についてですが、体幹の筋肉は脚の筋肉に比べると大きくて疲れにくい。その力を使うことで、長い距離も速く、そして疲れずに走ることができるのです。具体的には体幹の力を使って両脚を振るという感覚です。後に蹴る際にはふくらはぎの筋肉ではなく、お尻の大殿筋を使う。脚を前に振り出す際には、脚の付け根にある腸腰筋(大腰筋)を使います。ただ、腸腰筋は意識的に使うのが難しい筋肉ですから、腸腰筋に力を入れるというよりは後に蹴った際に腸腰筋が伸ばされるのを意識するほうがいいでしょう。筋肉は伸ばされれば自然に収縮しますから。

腸腰筋を伸ばしやすくするためには、走るときに骨盤を前傾させておくことが大切です。長距離でも短距離でも速いランナーにはアフリカ系が多いですが、彼らは元々骨盤が前傾しているので腸腰筋が強いことが要因だとされています。

骨盤を前傾させたフォームで走ると推進力を得やすい

もう1つ、体幹で推進力を生み出すポイントは、体幹のうねりを使うことです。腕を肩甲骨から大きく振ると体幹が捻られ、そこで生まれたうねりが骨盤に伝わります。すると、より大きな力で脚を振ることができるので体を前に運ぶ推進力が高まるのです。

やや難しい話になりましたが、初心者が体幹を使って走るためには、①着地の際に足を真下に着いて体幹までを1本の棒のようにすること。②背筋を伸ばして胸を開き、骨盤を前傾させて走ること。③腕を肩甲骨からしっかり振ること。この3つを意識すればいいでしょう。

背筋を伸ばし、胸を開いた姿勢で走ることが大切

とくに大切なのは姿勢です。初心者は疲れてくると猫背になりやすい。胸を開いたいい姿勢で走ることを心がけましょう。胸を開くためには肩甲骨を寄せることも大切です。胸が背中から引っ張られている感覚で走ると、正しい姿勢で走りやすいと思います。
骨盤が後傾した猫背の姿勢では体幹による推進力は得られない


金哲彦(きん・てつひこ)
プロランニングコーチ、駅伝・マラソン、陸上競技解説者、ランナー。福岡県北九州市門司区出身。早稲田大学教育学部卒業。在学中競走部に属し、中村清監督の下、箱根駅伝で活躍。卒業後はリクルートに入社し、陸上競技部を創設。1987年には別府大分毎日マラソンで3位に入る。1995年より同部監督に就任。同部の消滅後は、陸上のクラブチーム・ニッポンランナーズを創設する。現在は、テレビのマラソン・駅伝中継の解説も務める。最新の著作は『体幹ウォーキング』
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