相澤隼人【注目ルーキーの覚悟①】 2017年日本ジュニアボディビル選手権大会優勝者

いよいよ今月10月21日(日)に開催が迫った全日本学生ボディビル選手権大会。大型新人として大注目されていて、すでに様々なメディアでも取り上げられている相澤隼人選手にインタビュー。

高校生という括りで見られたくなかった

プロ野球ドラフト会議が目前に迫った昨年の10月9日、早稲田実業の清宮幸太郎が連日のように紙面をにぎわせていた頃、清宮と同じ1999年生まれのひとりの高校生によって、ボディビル史に残る金字塔が打ち立てられた。全国高校生ボディビル選手権大会3連覇。相澤隼人が達成した「史上初の3連覇」というキャッチーな響きは、専門誌のみならずテレビなどの一般メディアも放っておかず、その偉業は普段、ボディビルとは無縁の層にも届きはじめている。だが、周囲の騒ぎをよそに、本人は驚くほどそっけない反応を見せた。

「自分では全然たいしたことじゃないと思っています。だって、結局は高校生の中の話じゃないですか。出場した他の選手の方々には失礼ですけど、その時すでに一般に目が向いていたので、高校生というくくりで見られたくなかったんですよ。いくらまわりから『すごいね』と言われても、『高校生にしてはすごいね』と言われているような気がして……。年齢は関係なく、誰が見ても『普通にすごい』と思われたいんです」

ここまで言い切ってもビッグマウスだと感じないのは、大会で披露した肉体が言葉以上の説得力を放っていたからだろう。筋肉の大きさ、輪郭、バランス。どれを取ってもひとり高校生離れしており、輝きが違った。同日に行なわれた日本ジュニアボディビル選手権大会でも、年上(23歳以下)の強豪がひしめく中で初優勝を飾り、2冠を獲得。「17歳で獲れたことはひとつの誇り」と、ジュニア選手権大会の話題に移ると相澤は少しばかり相好を崩した。翌11月には世界ジュニアボディビル選手権大会に初出場し、75kg級で5位に入る健闘を見せている。

目覚ましい活躍を続ける相澤も、もちろん一朝一夕で今の肉体を手にしたわけではない。5歳離れた双子の兄・飛鳥と翼の影響で中学1年生からウエイトトレーニングを始め、最初は見よう見まねでジムにあるマシンを一通りこなす日々。トレーニングは当時、没頭していた柔道へ還元するためではなく「単純にトレーニングがしたかったんです」と、あくまでも別物として考えていたという。

「鏡を見れば、一目で筋肉がついてきたことがわかるじゃないですか。やればやった分だけ絶対に結果がついてくる。そこは他の競技に比べたらわかりやすいですし、一番楽しい部分なんじゃないかと思います」

トレーニングに没頭しはじめた高校時代

ウエイトトレーニングの魅力に取りつかれていった相澤は、あこがれと公言する世界チャンピオン・鈴木雅のDVDを見て勉強し、セミナーにも足しげく通い、少しずつ知識を深めていった。高校へ進学すると、「やりたいからやっていただけ」だったトレーニングは、大会のため、ボディビルという競技のために、はっきりと目的意識を持って取り組むものへと変わった。途中、壁にぶつかった経験も一度や二度ではない。初優勝を飾った高校1年生時の全国高校生ボディビル選手権大会も、心身ともにコンディションは最悪だった。

「正直、トレーニングはやろうと思えばどうにかなるんですよ。それよりも、精神的に本当にしんどくなるんです。高1の頃は1日の食事の糖質をほぼゼロにしたんですけど、その時はひどかったですね。体重が落ちなかったので何でだろう?と思って次はカロリーを落として、そうすると体が省エネモードになってどんどん代謝が悪くなる。それでさらに絞れなくなるという負のスパイラルに陥って。大会が終わってから気づいたんです、オーソドックスが一番いいかなって。高2、高3としっかり白米を食べるようにしたらすごくよかったですね」

コンディションに不安を抱えながらもサラリと優勝してしまうあたりに底知れぬポテンシャルを感じるが、食事、トレーニングともに試行錯誤を繰り返しながら、猛スピードで進化を遂げてきた。そして今春、輝かしい実績を引っ提げて日本体育大学へ進学。10月21日に開催される全日本学生ボディビル選手権で、いよいよ大学デビューを迎える。彼を“鳴り物入りのスーパールーキー”という言葉で片付けてしまうのは、少し違うだろう。初出場にして、すでに優勝候補の一角だと断言してもいい。

そんな相澤に大会で意識する選手を尋ねると、「いますよ、去年のチャンピオン」とニヤリ。相澤よりも2学年上で、昨年の全日本学生ボディビル選手権大会を制した泉風雅の名をあえて口にしないところに、強烈なライバル心が見て取れた。泉の印象を次のように語る。

「インパクトがすごく強い選手だと思います。最初のポーズの時に一番前に出る肩腕がとくに強いので、いきなりすごい迫力になるんですよ。去年の学生選手権は泉さんが登場した瞬間に『あ、この人優勝だな』と思いました。自分とは逆のタイプですよね。自分の場合はどこがすごいという体ではないんですけど、全体的にバランスが取れていることが強みだと思います。他の選手よりも弱点の数が少なくて、ポーズを取っていく中でトータルの評価が高くなるタイプなので。あとはしっかり絞れるかどうかの勝負になるんじゃないかなと思います」

インパクトの泉VSバランスの相澤。対照的なふたりの戦いに注目が集まるが、「正直、優勝以外は負けだと思っています。自信がなかったらやっていないですよ」と、ディフェンディングチャンピオンを向こうに回しても強気な姿勢を崩さない。だが、「不安な部分もありますけど、そこは自信を持ってやるしかないんですよ、ここまで来たら」と、自分自身へ言い聞かせるように付け加えた。

メンタルが重要なウエイトを占めるボディビルという競技において、意図的にポジティブな思考を持つこともトレーニングの一環と言えるのかもしれない。「雅さんからの教えなんですけど、『自分は天才だ』と思うようにしています。実際にそうだとは全然思っていないですけど」と笑った横顔は、まぎれもなく18歳のそれだった。そしてすぐさま、その表情を“ボディビルダー・相澤隼人”に戻す。

「いつか雅さんと同じ舞台に立って、雅さんに勝ちたいです。将来的な目標は日本選手権優勝、連覇。世界選手権優勝、連覇です」

一般の頂点をも見据える相澤にとっては、「学生」という枠も狭すぎるのか――。その答えは、10月21日に出る。目標はただ勝つことだけではない。「○○にしては」というフィルターを通さず、「普通にすごい」ことを証明した上で、表彰台のてっぺんに立ってみせる。

取材・文/伊藤翼 撮影/神田勲