ボディビルに出会って変わることができた・横川尚隆③【人物クローズアップ「筋の旅人」】




自分の力だけで勝ち取った成績ではない

ボディビル業界で“ポスト鈴木雅”の最右翼と言われている横川尚隆のインタビュー第3弾。今回は東京選手権での敗北から2017年の日本選手権に向けての取り組みについて。

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――昨年2016年の東京選手権のあとには、10月に日本ジュニア選手権に出場しました。これは16歳以上、23歳以下の選手で争われるタイトルです。

横川 正直なところ、そこまで高いモチベーションを持って臨んだわけではありませんでした。あの(東京選手権の結果の)ままでは終われない、という気持ちで出場しました。ちゃんと絞った(減量した)姿でステージに立ちたい、という気持ちでした。

――日本ジュニア選手権では優勝、同年12月にドミニカ共和国で開催された世界ジュニア選手権では準優勝という成績を収めました。

横川 うーん……、去年までは、ノホホンとした気持ちで取り組んでいたのかもしれません。ボディビルが好きだからやっている、という感じだったかもしれません。ただ、世界ジュニアに向けての調整中に、初めてオーバーワークになったんです。東京選手権での無理な減量もたたったのかもしれません。また、トレーニング量も多かったですからね。
――どのような症状が出たのでしょう。

横川 スクワットをやろうとしたんですが、20kgキロのバーを担いだだけで、立てなくなってしまって。体に力が入らなくなってしまっていました。そこからトレーニング内容を変えました。1セットの強度を高めて、時間を短くするようにしました。それまでは自分の感覚を頼りにトレーニングを進めていたのですが、いい部分は残し、そこに時間を短縮したトレーニング法をミックスさせていきました。

――今年2017年の日本選手権には、並々ならぬ決意を持って臨んだと思います。気持ちが切り替わるキッカケがあったのでしょうか。

横川 今年に入ってから、気持ちはずっと燃えていました。去年はジュニアだったんですが、今年は(ベテラン選手たちとともに)一般の部で闘うことになった。また、去年の東京選手権では納得のいく闘いができず「僕はまだまだこんなもんじゃない!」という気持ちはありました。絶対に今年は結果を出したかったです。

――世界ジュニア選手権で準優勝したことで、さらに注目度も高まりました。

横川 そこでさらに多くの人たちに応援していただいて、期待に応えなきゃ!という気持ちが出てきました。今年は周囲の人たちに感謝しながら生きてきた1年でした。自分なんてまだまだクソガキなんですが、さらに自分が変わることができた1年だったような気がします。

――ボディビルによって成長させてもらった?

横川 本当にそう思います。昔の友だちからは「性格が変わったね」と言われるようになりました。

――ボディビルに取り組むことで、大人の人たちの優しさにも触れるようになったのですね。

横川 そう思います。それまでは社会にも大人にも反発をして、誰の言うことも聞きませんでした。ボディビルに出会って、変わることができたと思っています。

――今年のボディビル界には横川旋風が吹き荒れました。日本クラス別選手権、東京選手権ではともに優勝を飾りました。

横川 自分の力だけで勝ち取った成績だとは思っていません。いろんな方からアドバイスをいただいて、それを自分なりに一生懸命にこなしていっただけです。これで(優勝という)結果が出せなかったら、自分が怠けていたということになります。ある意味、(優勝して)当たり前だと思ってしまいました。そう思えるほど、熱心なアドバイスをたくさんいただけました。こんなに恵まれた環境があるのに結果が出せなかったら、原因は自分の努力不足です。
SNSでも、いろんな人たちから応援のメッセージをいただきました。「がんばってください」とか「会場まで見に行きます」とか、つらいときはそういった言葉に助けられました。だから、自分の力で活躍した、という実感がないんです。周囲の人たちに助けられながら、ここまでくることができました。結果を出させてもらった、という感じです。

――日本選手権では2次予選が終了したあと、決勝進出が決まったにもかかわらず、バックステージで泣いていたそうですね。予選落ちしたと思い込んだ鈴木選手が「また来年、がんばろうね」と声をかけてきたという。

横川 はい(苦笑)。(ボディビルダーの)木澤(大祐)さんからも「なんで泣いてるの!?」って言われました(苦笑)。

――うれし泣きだったのですか?

横川 自分のなかで、絶対にファイナリスト(決勝に進出した12名)にならなきゃいけないと思っていたんです。うれしいというより、ほっとしたんだと思います。本当は、日本選手権には去年、出たかったんです。でも、去年の東京選手権では予選落ちして、日本選手権への出場権を得られなかった。そこから1年間、たくさんの人に支えられながら取り組んできました。また会場にも多くの人たちが応援に駆けつけてくれたんです。家族もみんな、会場にきてくれました。家族のまえでも結果を残せて、そこで緊張の糸がほぐれて、ほっとしたんです。みなさんには本当に感謝しています。

横川尚隆(よこかわ・なおたか)
1994年7月生まれ。東京都出身。身長170cm、体重75kg(オン)、97kg(オフ)。2015年にオールジャパン・メンズフィジーク選手権172cm級で優勝した後、ボディビルに転向。16年の日本ジュニア選手権で優勝し、世界ジュニア2位入賞。17年の日本選手権で6位入賞。

聞き手/藤本かずまさ
撮影/やまなか順子‵