リハビリテーションのスペシャリスト、PT(Physio Therapist:理学療法士)の神鳥亮太さんにお話を伺うこのコーナー。今回のテーマは、「対症療法と根治療」。とりわけ、「安静」が治療につながるのか否か、PTの立場からのご意見を訊いていく。
―――怪我をして病院に行くと、「安静」を指示されることが多いように思います。また、病院にも行かず、特に何もせず、ただ安静にして時が過ぎ、痛みが治まるのを待つ、そんな人も多いように思います。
「安静」というのは、「動かさない」ことによる対症療法です。火事が起きたとして、そこに少しだけ水をかけるようなものです。それでは再燃してしまいますよね。火事が消えるのを待つとか、燃え尽きるのを待つとか、それと同じようなものです。例えば、急性腰痛に対して、安静というのは治療効果としてエビデンスが低いと言われています。推奨されているのは、積極的な治療です。「安静にして下さい」としか言わない病院というのは、原因が解決できていない病院ということだと思います。
―――痛み止めの注射や、鎮痛剤の処方だけに終わる診察も多いように思います。
病院で痛み止めの注射を打つというのは、原因の解決ではありません。例えば、手を上げるのが痛いと医者に訴え、「では注射しましょう」となり、それで「痛みがなくなりましたね」と言われたとします。ですが、それでは家に帰ると、多分また痛みが出ると思います。それが対症療法ということです。痛み止めを飲む、湿布を張る、そうしたことは、安静と何が違うのか?ということになります。
―――対症療法には意味がないということでしょうか?
まったく意味がないわけではありません。たとえば、キシロカインテストと言うのですが、ある箇所に注射を打って痛みが消えたら、痛みが出ている場所の特定にはなります。しかし、「その原因は何であるか?」というのは、違う問題です。その原因の解決が必要になります。
―――根治療のために、原因の特定が必要ということですね。
たとえば、インピンジメント症候群(※本シリーズ「スペシャリストに訊く」Vol.4と5参照)を解消するために、大胸筋を柔らかくするとか、そういう具体的なことが必要になります。ただし、その前に、その症状が大胸筋によって引き起こされたものなのか、そうした機能評価をしなくてはなりません。それが、PTの仕事です。
―――トレーニング中の怪我を中心にお話しいただいていますが、日常生活の改善が必要な場合も多くあるのですよね。
インピンジメント症候群の例で言うと、原因の一つに、胸椎が丸まっていることが挙げられます。デスクワークを行う人は、姿勢が丸まっていたりしますが、それによって大胸筋が伸張性を失い、インピンジメント症候群になるという場合もあります。ウエイトトレーニングによって発症するインピンジメント症候群と現象は同じですが、原因が異なるわけです。デスクワークをしている人が、仕事で大胸筋を鍛えているわけではありませんからね。デスクワークをしている人が、大胸筋ばかりを鍛えていたら、それはインピンジメント症候群への道、一直線でしょうけれど(笑)。
取材・文/木村卓二
理学療法士、日本体育協会公認アスレティックトレーナー。2000年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻を卒業し、理学療法士免許を取得。以後、三菱名古屋病院で膝関節、肩関節疾患などのリハビリテーションを担当。現在はジャパンラグビートップリーグ・豊田自動織機シャトルズのヘッドアスレティックトレーナーを務める。