「子どものうちから筋トレをすると身長が伸びなくなる」
古くから言い伝えられている都市伝説のようなこの言葉を耳にしたことがある人も多いはず。でも本当にそうなのだろうか? 私は小学3年生からレスリングを始めて、基礎体力トレーニングの成果もあって4年生の時には腹筋がバキバキに割れて、力こぶも盛り上がるようになっていた。もともと体は大きいほうではなかったが、中学時代には身長も30㎝近く伸びたし、筋肉がついたからといって背が伸びないということはないのではないかと思っている。
科学的な根拠は専門家に任せるとして、実際に子どもたちを指導する立場にある人物に、子どものトレーニングについて聞いてみよう! というわけでシドニー五輪フリースタイルレスリング63㎏級の日本代表で、総合格闘家としても活躍する宮田和幸氏を訪ねた。
ヘラクレスボディの秘密は子どもの頃の食事にあり
宮田氏は現在、三郷、草加、北千住に3つのジムを構え、さらに6月には広尾にも新規ジムをオープン。一般だけでなく、子どもの体育塾やキッズレスリングの指導も行っている。40歳をすぎた今でも現役選手として活躍し、「ヘラクレスボディ」と呼ばれる鍛えあげられた肉体を持つ彼に、まずは自身の子ども時代のことを聞いた。
「レスリングは小学5年生から始めたんですけど、練習は週に1回だけで遊びみたいなものだったので小学生の頃は勝った記憶がないです。筋トレもやっていたのは腕立て伏せくらいですね。小学校、中学校の時は腕立て伏せをよくやっていました。高校ではバーベルも使いましたけど、ウエイトの日は流してる感じで、そんなに本格的にはやっていません」
腕立て伏せは腹筋、背筋も使って体をコントロールすることが必要になるので、腕以外の筋肉にも効果がある。確かに効果の大きいトレーニングではあるとはいえ、現在の体つきをみると、バーベルを使ったトレーニングをほとんどしていなかったというのは驚きだ。宮田氏はヘラクレスボディには、トレーニングに加えて食事の影響もあるのではないかと分析する。
▲腕立て伏せは腹筋、背筋も必要なので子どもやトレーニング初心者にとてもいいトレーニングになる
▲腕の開き方はいろいろな種類があるが、ワキを締めて行うのが宮田氏のオススメ
「自虐ではなくて実家の食事があまりおいしくなかったんです。だから子どもの頃は肉がおいしいと思ったことがなかったし、みんなが食べるハンバーグとか揚げ物とか、太りそうなものを食べなかったんです。おかずはあるけど、おいしくないから食べないで、納豆とか卵かけご飯とかばかり食べていました。今となってはそれが良かったんじゃないかと思っています。人間は2回太る時期があって、第一次成長期、第二次成長期に脂肪球、脂肪の数が決まるって言われているんですが、自分は子どもの頃にそういう食事をしていたので、脂肪がつきにくいんだと思います」
実家の食事が口に合わなかった結果、子どもの頃に脂肪をあまりとらずタンパク質を多く摂取していた。この事実がその後の肉体に大きな作用をもたらしたのかもしれない。
ケガの予防のために始めたウエイトトレーニング
2000年のシドニー五輪に出場した時は「ウエイト否定派だった」という宮田氏。しかし、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)ができてからは、本格的にウエイトトレーニングにも着手するようになった。それはパワーや筋肉をつけたいという考えではなく、ケガを予防するという発想からだった。
▲自重トレーニングとして懸垂は有効。腕の開き方を変えることで負荷のかかる部位を変えることもできる。パーソナルトレーニングの空き時間にも懸垂を行っているという
「フィジカルアップというのもあるんですけど、それ以上にケガをしない体作りのためにウエイトトレーニングが大事だというのをNTCができてから学びました。トレーニングによって骨や腱が強くなるんだと。実際、総合格闘技の選手でもウエイトトレーニングをガッチリやっている選手はケガが少ないんです。レスリングの選手、とくに軽量級は体重が増えすぎると困るから、あんまりウエイトはやらないんですよね。ケガで選手生命がダメになってしまうのはもったいないので、しっかりウエイトをやることも必要でしょうね」
※次回は実際に子どもたちを指導している様子と、そのトレーニングについての話をお届けします。
取材・文/佐久間一彦
宮田和幸(みやた・かずゆき)/1976年1月29日、茨城県出身。小学生時代にレスリングを始め、全日本選手権で3度優勝。2000年のシドニー五輪・フリースタイル63㎏級日本代表。2004年に総合格闘家としてデビュー。2009年に自らが主宰するジム「BRAVE」を北千住にオープンする。現在は北千住に加え、三郷、草加と3つのジムを運営。6月には広尾にも新ジムを開設した。
BRAVE
広尾ジム