こういったところにフィットネス人口3%の壁を破るヒントが隠されているのかもしれない。「マッチョバスツアー」が様々なメディアに取り上げられたのが2015年。その後もマッチョカフェや劇団マッチョなどの企画がヒット。キレているエンターテインメント集団「マッチョ29」が、今ちょっとキテいる。
ボディビル界の絶対王者・鈴木雅は、日本とアメリカの筋肉文化の違いをよくヒーローものの主人公に例えて説明する。アメリカンコミックなどの主人公は筋骨隆々で、問答無用のパワーで敵を叩きのめしていく。一方、日本のヒーローものの主人公は細身で、知恵や仲間の力を駆使ながら強大な悪に立ち向かう。プロレス的な表現を用いれば、華奢なほうが善玉で、見るからに強そうなほうが悪玉。「柔よく剛を制す」の闘いが好まれる日本には、筋肉が強さの象徴としてリスペクトされる土壌がないというわけだ。
確かに、日本では筋肉は尊敬よりも嘲笑の対象にされることのほうが多い。2年ほど前だったか、ボディビルダーが油汚れに扮したスチームクリーナーのCMが放送されて筋肉業界をザワザワさせたことがあった。トレーニング愛好家の筆者も眉をひそめたものだが、現実として筋肉というものは一般的には「なんだかおもしろい」「ちょっとバカっぽい」といったイメージを持たれている。
そんな世間の印象を逆手に取るかのような手法で躍進を続けるのが「マッチョ29」である。ちなみに「29」は「ニュジュウキュウ」でも「ニク」でもなく、「トゥウェンティーナイン」と読む。
ステージでマッチョが歌い踊ったり、マッチョカフェではメンバーがマッチョポーズを取りながら女性客を取り囲んだりと、やっていることはとにかくバカバカしい。そのバカバカしさゆえに、筋肉業界には彼らに嫌悪感を抱く人も少なくはない。筆者も、好きか嫌いかで言えば、正直なところ、あんまり好きではなかった。
ただ、この罪のないバカバカしさが「筋肉」を一般世間へと届ける駆動力になっている。ボディビルのコンテスト情報とマッチョ29のイベント。メディアに取り上げられる機会が多いのは後者のほう。3%の世界の住人以外の視点をしっかりと有しているところがマッチョ29の強みだ。
また、メンバーにはコンテストで実績を残している者が多く、トレーニングに対する情熱や筋肉への愛はホンモノ。オフィシャルファンクラブの名称は「プロテ員」とやっぱりフザけているけれど、会員種別にはスタンダードな「プロテ員」とプレミアムな「プロテ員WPI製法」があり、マニアをクスリとさせる。WPIとは純度の高いプロテインをつくる製法。この言葉を知っている人はかなりのトレーニング通である。
マッチョバスツアーだけで終わらず、その後も活動の場を広げ続けてこられたのは、その根底に筋肉やトレーニングに対する愛情があるからだろう。2017年11月21日にはついに赤坂BLITZで単独ライブを開催するにいたったマッチョ29。あんまり好きではなかったけど、こりゃ参った! これはVITUP!としても追いかけていく必要があるだろう。