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身体の使い方にはコツがある! バイオメカニクスが明らかにしたスポーツ動作のスキル




多くのスポーツに共通するスキルは3つ

速く走る、高くジャンプする、ボールを投げたり蹴ったりする。こうしたスポーツのダイナミックな動作には、共通するスキルがあります。コツといっても小手先の技術ではなく、もう少し本質的な身体の使い方のことです。

多くのスポーツ動作に共通するポイントがあることがわかってきたのは、実はわりと最近のこと。人間の身体の仕組みや動かし方について研究する「バイオメカニクス」という学問の研究成果です。

”動作の本質”といえるそのポイントとは次の3つです。

●反動
●捻転
●ムチ動作

1つめの「反動」とは文字通り、ジャンプする際に一度しゃがみこんだり、ボールを投げる前に腕を後に引いたりする動作のこと。「捻転」とは体を捻る動作のことで、体幹を捻るようにずらして回転させることで大きな力とスピードを生み出すことができます。「ムチ動作」は手足をムチのように使って体幹で生み出したパワーを、手足などの末端部分に伝える動きのことです。

ダイナミックな動作を行う際のコツとなる、この3つのポイントについて、もう少し詳しく見てみましょう。

反動を使うことで、筋肉や腱のパワーを引き出す

反動を使うと、大きな力を生み出せるということは、スポーツをしたことがある人なら、経験的に知っていることだと思います。垂直跳びをする際には、多くの人が膝を勢い良く曲げてから跳び上がるでしょう。この時、膝を曲げたところで一度止まってからジャンプするより、勢い良くしゃがみこんで一気に跳んだほうが高く跳べます。

これは、筋肉や腱は急に伸ばされると縮もうとする性質を持っているためです。筋肉は急に伸びると切れるおそれがあるため、脊髄から瞬時に「縮め」という司令が送られます。これを「伸張反射」と呼びます。もう1つは、腱は伸ばされると縮もうとするバネのような性質を持っていますので、反動とはこの両者の性質を利用することだといえます。

© .shock-Fotolia

体幹の上部と下部を捻ることでパワーを生む

捻転は体を捻ることだと書きましたが、ダイナミックな動作の場合、特に重要なのは体幹の捻りです。例えばバットをスイングする際は腰が先に回転し、やや遅れて肩がついていきます。この時間差によって体幹に捻じれが生じ、より大きなパワーを生み出すことができるのです。

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体幹にある腹斜筋などの筋肉は、この捻りによって大きなパワーを発揮します。体幹の筋肉を鍛えていても、腰と肩が同時に回転させていては、こうしたパワーを活用することができません(ゴルフでは「ドアスイング」などと呼ばれます)。体幹でパワーを生み出すためには、この捻転がポイントとなります。スポーツの世界には昔から「腰を入れる」「タメを作る」という言い方がありますが、それは体幹部の捻転を指しているといえます。

腕や脚を脱力してムチのように振る

腕や脚をムチのように振ることで末端を加速させるのがムチ動作です。ピッチャーがボールを投げる際、まず肩が回り、それに遅れるように肘、手首がついていきます。そして、あるポイントから肘が肩を追い越し、手首が肘を追い越していきます。その際に、肩よりも肘が、肘よりも手首と末端にいくにしたがってスピードが速くなるので、速度の乗ったボールを投げられるのです。

ムチ動作は投球だけでなく、バットやラケットでボールを打つような動きや、サッカーでボールを蹴る動き、それに速く走るための脚の振りなどにも活きる動作です。ポイントとなるのは体幹での力を入れるタイミングと、末端の四肢(腕や脚)の脱力。腕や脚の末端の関節に力が入っているとムチのように振ることができなくなってしまいます。トップ選手の動きを見ていると、まったく力が入っていないように見えるのに、豪速球を投げたりしているのは、このムチ動作をマスターしているからなのです。

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体幹を使って四肢を振るのがポイント

まとめると、反動や体幹で捻転を使って大きなパワーを生み出し、ムチ動作でそれを末端に伝えるというのが多くのスポーツ動作に共通するスキルだといえます。その際にポイントとなるのは体幹でパワーを作ることと、四肢はリラックスさせること。一流と呼ばれるスポーツ選手の動作を見ていると、フォームは個人差があっても、この3つのポイントを抑えていることに気付くと思います。

運動やスポーツは、上達していくことで面白くなり、継続したくなるものですが、やみくもに練習するよりもコツやポイントとなる部分を抑えたほうが早く上手くなることができます。次回以降は、「走る」「投げる」「跳ぶ」「蹴る」などの動作別に、そのポイントを紹介したいと思います。

深代千之(ふかしろ せんし)
1955年、群馬県出身。東京大学大学院教育学研究科修了。教育学博士。東京大学大学院総合文化研究科教授。日本バイオメカニクス学会会長。(一社)日本体育学会会長。国際バイオメカニクス学会元理事。身体運動を力学・生理学などの観点から解析し、理解するスポーツバイオメカニクスの第一人者。『<知的>スポーツのすすめ』(東京大学出版会)、『骨・関節・筋肉の構造と動作のしくみ』(ナツメ社)、『運動会で1番になる方法』(ASCII)など多くの著作がある。