海軍体操を知っていますか? ④




畳一畳のスペースでできる体操

さて今回は海軍体操の全身運動の中で残りの「懸垂」「統斉」「特殊」の体操を紹介する。この中の「統斉」とはあらゆる筋肉を強靭にしていき、精神も含めて全てを整える体操という意味で、この「統斉」こそが畳一畳分でできる海軍体操の核というべきものだ。

従って「海軍体操教範」中の「統斉」については順番に全ての図を紹介していこう。この図による紹介では、一つ一つセパレートのように体操をすると思われるが、実際は全て連続していて、流れるようにリズミカルなものである。

画像1は両手を肩から力を込めて上にあげるもの。このあと図にはないが肩に手を戻して、真横。そしてまた元の位置に戻して前に突き出す運動だ。

画像1

画像2は両手を肩に付けて、徐々に上に突き上げていく。つまり、体全体を天に伸ばす感じで腕を上げる。この時、踵が上がっているが、この踵が上がっている状態のまま、膝を曲げて蹲踞の姿勢にしながら、図のように両腕を斜めに上げる。このあと徐々に腕を下ろしながら膝を伸ばして、踵を下ろして立つ。

画像2

画像3は腕を横に伸ばすと同時に脚を開き、片膝をゆっくりと曲げていく。このあとも腕肩を強靭にしていく体操が実際には続くが教範には出ていないので解説は省く(おそらく教範が出版された後に付け加えられた体操=画像4)

画像3
画像4

画像5は両腕を側方に伸ばして、片脚を後方に上げ伸ばし、体を徐々に前に倒して、胸を張り、バランスを保つ(集団で行うとこうなる=画像6)。

画像5
画像6

画像7は片手を腰に当てて、もう一方の腕を上に上げつつ、徐々に体を横に倒していく。この状態でバランスを保つ。画像8は初回で掲載した堀内大佐。画像9は通常の倒立となる。

画像7
画像8
画像9

◆特殊&懸垂
特殊体操は画像10のように鉄アレイや棍棒を持っての体操である。懸垂は通常の訓練のようなものだが、鉄棒も含めて画像11と画像12のような綱登りなどを行う。

画像11
画像12

以上、昭和17年発行の「海軍体操教範」より紹介した。とにかく海軍軍人は軍艦内での作業に軽快で俊敏、そして正確性が求められ、体力、気力を備えなければならなかった。そのために生まれた海軍体操は健康と体力増進のためにも大変な効果があるとして、基礎体操のほうが海軍に関係する造船工場や飛行機製造工場などで広まった。現在でも海上自衛隊では(海軍体操と比べれば格段に物足りないが)海軍体操とラジオ体操をミックスしたような体操(海上自衛隊第一体操)が行われている。

私的ながら今回のお盆で東海地方に帰省した際、堀内式海軍体操を実際に指導していただこうと、創始者・堀内豊秋大佐のご子息で名古屋在住の堀内一誠さん宅に連絡を取った。戦時中、江田島・海軍兵学校隣に併設されている官舎には兵学校教授や監事などの子弟が暮らしていたが、一誠さんも父の堀内大佐が戦地から戻り兵学校教官だった時期にその官舎で育ち、父・堀内大佐から体操を習っていたからだ。

だが一誠さんはいまや80歳を過ぎ、体調を崩されて入院されたとのことでお会いすること叶わなかった。また機会があれば、一誠さんから教えを受けて、本格的に紹介したいと思う。

文/安田拡了

参考資料…「海軍体操教範」(海軍教育局検閲、兵用図書株式会社発行、昭和17年12月発行)