あくまでもレスリングを通じて心身を鍛える
――子供たちの指導している中で自分にとってプラスになったことはありますか?阿部 何がプラスになったというよりも、本当に勉強ですね。僕にとっても修行だと思って続けていきています。僕が10年前に伝えていたことと、5年前に伝えていることと、今伝えてることというのは少しずつ違っていると思います。もちろん根本の部分は変わりませんが、やっぱり僕の中でも勉強した部分もあるので、それによって教え方に変化もあります。そうやって学びながら僕も成長させてもらっていると思います。
――阿部さん自身が経験を積むことで、指導の仕方や子供との接し方も変わってくる部分があるのですね。
阿部 やっぱり変わってきますね。あとは自分の年とともに変わることもあるし。
――最初に指導した子たちはもう大人ですよね。
阿部 今はもう社会人です。社会人になって続けている選手はいないと思いますが、大学生はすごく頑張っていますね。今度、教え子の結婚式があるんですよ(笑)。
――もうそういう年齢になるんですね。今は全体で何人くらいいるのですか?
阿部 70~80人くらいです。大森は多いので60人くらいいます。
――今の日本は少子化で、各スポーツで人材集めが大変です。そうしたなかでなぜこれだけたくさんの子供たちが集まるのでしょう?
阿部 特別な宣伝をしているわけではなくて口コミが多いですね。最初の頃はいろんなことをやってみましたけど、それが一番確実に増える方法という気がします。口コミでこういうことをやっているんだということがわかれば来てくれるし、実際に体験してもらって納得して来てくれるということもあります。
――ここはレスリングですが、子供のこうした運動は週に何回くらいが理想ですか?
阿部 ここは月曜から土曜までやっていますけど、試合前は別として普段はさすがに毎日来る子はいないです。週3回くらいが一番多いですかね。1週間の練習は競技にもよりますし、あとはその子がどこを目指すかによっても変わってきますよね。
――例えば自分の子供だったらどのくらいやらせたいという希望はありますか?
阿部 楽しく遊びの延長でやる分には毎日でもいいと思います。競技に特化して試合に勝っていくとなった場合は、ある程度の日数と休養も必要になってきますし、集中してやる時間というのを増やしていかなければならないですね。
――子供の集中力が持つのは2時間くらいが限度ですか?
阿部 2時間は少し長いと思います。ウチの練習は2時間やっていますけど、小学生は1時間半ぐらいですかね。もっと小さいキンダークラスの子たちは1時間でいいと思います。
――指導の年数を積んでいくうちそうした部分もわかってくるものですか。
阿部 そうですね。たとえばその日の練習に参加しているメンバーによって内容を変えたりもします。
――そういうこともあるのですか。
阿部 基本は変わらないですけど、その中でちょっとずつ今日の参加メンバーのレベルに合わせて内容を少し変えるという感じですね。競技を主体としている人数が多いのか、楽しくやったほうがいいのか。全国大会を目指している子が多い日の練習と、体を動かすことが目的でやっている子が多い日の練習は、内容を少し変えるほうがいいんですよね。基本、子供たちは遊びたいので、そこも見極めながら(笑)。
――最後に目指すところ、理想を教えてください。
阿部 基本はレスリングをやることによって体が丈夫になってほしい。そして、それぞれの目指すものを叶えるというのが一番いいんじゃないですかね。もちろん、レスリングでオリンピックに行ってくれる選手が出てきたらすごく嬉しいですけど、それがすべてではないですから。あくまでもレスリングを通じて心身を鍛える、それによっていろいろなことを学んでくれればいいと思います。たまたま僕がレスリングをやっていたのでレスリングを通じてそういう指導をしていますけど、どんな習い事でもそれはいいと思っています。
1970年2月9日、愛知県出身。高校、大学ではレスリング選手として活躍し、その後は総合格闘家として、修斗、K-1、シュートボクシング、PRIDEなど様々なリングで闘った。指導者としての定評も高い。現在はAACCを主宰し、後進の指導に勤しんでいる。
AACC→www.aacc-sports.jp
取材&撮影/佐久間一彦