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トップアスリートのメンタル術【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第6回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 春のセンバツ高校野球は幕を閉じましたが、延長、逆転、しびれる試合が多く、とても面白い大会だったと思います。試合を見ていると、勝負どころで力を発揮する選手やチームがある一方で、土壇場でプレッシャーに負けてしまう選手やチームもあります。やはり勝負の世界ではメンタルがとても重要だということがわかります。

甲子園ほどの大舞台ではなかったとしても、大会や発表会など、人と競う舞台に出場したことがある方なら、本番で緊張した経験があるのではないでしょうか? 緊張する要因の一つには「不安」があります。万全の準備ができなかった、あるいは相手の力量が上……など、自分に自信を持てない時は不安を感じ、それが緊張につながるのだと思います。

高いパフォーマンスを発揮するためには、平常心で試合に臨むことが大事。では実際、トップアスリートはどんな準備をして試合に臨んでいるのでしょうか?

リオデジャネイロオリンピックの後に取材させていただいた、男子柔道90㎏級金メダリストのベイカー茉秋選手と、女子レスリング48㎏級金メダリストの登坂絵莉選手は、ともに初めてのオリンピックでもまったく緊張せずに平常心で闘えたと語っていました。

ベイカー選手はリオの前に出場したワールドマスターズの2回戦で肩を亜脱臼。棄権も考えるなか、負傷を抱えたまま闘いきって見事に優勝を飾りました。逆境を乗り越えた成功体験が、オリンピックでの好結果につながったのだと言います。

「オリンピックは骨が折れても国を背負って闘わないといけない。直前の大会で肩を亜脱臼する試練を経験して、それを乗り越えたことが大きな自信になりました。そういうことがあったので、オリンピックの時は前の日もよく眠れたし、当日もたっぷりご飯を食べてリラックスしていました」(ベイカー選手)

ベイカー茉秋選手(左)と増井浩俊選手(右)©Toshiharu Yano

一方の登坂選手は「頭の中ではもっとすごい世界を想像していたので、言い方は悪いですけど、『こんなものなのか』と思ったぐらいで、オリンピックが特別とは感じませんでした」と言います。

そんな登坂選手は細かすぎるくらいのルーティンで“いつもの自分”を保っています。計量の後にご飯とみそ汁を食べ、オレンジジュースと牛乳を飲んで、寝る前にはどん兵衛を食べる。試合の当日は部屋で大きな声で好きな歌を歌い、試合の準備をする時はシューズもサポーターも左からつける。そうやって普段通りの自分を整えて試合に挑んでいるのです。「ルーティンが崩れたら不安になる」という理由から一切ルーティンを作らないという選手も多くいますが、登坂選手はたくさんのルーティンをこなしていくことでリズムを作っていくタイプだそうです。

今年、北海道日本ハムファイターズからオリックス・バファローズにFA移籍した増井浩俊選手は抑えのピッチャー(=クローザー)です。クローザーの出番は僅差でリードの最終回。つまりチームの勝利を決定づけるために最後にマウンドに立ちます。最終回を任されるプレッシャーは当然大きいはずですが、彼にも自分なりのリラックス法があります。それは「自分は大したことないと思う」こと。言葉だけを聞くと、ネガティブな発言にも思えますが真意は違います。

「僕はもともと社会人3年目にドラフト5位でやっとプロになれた選手です。ドラフト5位の選手なんて誰も期待はしていない。そんな大したことのない自分が最終回のしびれる場面で投げさせてもらえるのは本当にありがたいこと。そう思って、マウンドに上がっています。それが緊張しない秘訣といえば秘訣ですかね」(増井選手)

何としてでも抑えなければ……と気負うのではなく、痺れる舞台を自分に任せてくれた……と喜びに置き換える。それが増井選手のプレッシャーに負けない方法です。

このようにトップアスリートは、最高のパフォーマンスを発揮するために自分なりのルーティンやリラックス法を持っています。部活をやっている学生の皆さんは、ぜひ参考にしてみてください。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。