よい姿勢を作るには重心軸を作ること
例えば、スクワットの要領で重いバーベルを持ち上げるとき、ウエイトの真下に体を持ってくるようにする。それは重りの位置が前後にずれると、地球の重力に向かって下りて重さを支えることができずに、体のパワーを効率よく出せないからだ。
同様に、上半身というウエイトを下半身が持ち上げ支えやすくするために、”下半身がどこに位置すれば効率良いのか”、を考えることが重要だ。
「よりよい姿勢=本来あるべき姿勢を取り戻すには、体の中に重力の方向と一致した『重心軸』を作ることです」(飯田氏)
私たちの体を自分に押し付ける重力の働きに対抗して、上半身という重りを持ち上げて運ぶのが下半身。立っているときには下半身が上半身を支え、上半身を重力から押し返す土台のような役割を果たしている。“上半身は下半身という土台に乗っている”と考えるべきなのだ。
「上半身の重さが股関節に乗っていないとムダな動きや力みを生んで、スムーズに動くことができません」
普通に立っている状態のときは重力方向に、垂直に体を通る重心軸ができている。
では股関節、ヒザ関節、足首関節の3つが大きく曲がった低い姿勢の時はどうだろうか?
関節が曲がったジグザグの姿勢は「アスレティックポジション(パワーポジション)」といってラグビーやレスリングでタックルに行ったり、おもいっきりジャンプする直前だったり、と全力を発揮するときにとる体勢だ。
アスレティックポジションを取った時、重心軸は矢印のように胴体の真ん中、フトモモの真ん中、すねの真ん中を貫くようにしてできている。
重心軸という『串』が体を貫いているようなイメージを持ってほしいと飯田氏は言う。
姿勢の悪さを示す表現には「猫背」「あごが上がっている」「腰が曲がっている」などが典型的だが、これらはすべて横から見たときのアライメントの崩れを示している
ところで、人は他人を見た時、「猫背」や「ヒザ・腰・背中の曲がり」など横から見た姿勢によって「老けて見えると感じる」などの判断をしていることが調査で明らかになっている。これは顔の外見で判断するよりも割合が高いのだ。
重心軸の観点でいえば、重心が前すぎたり、後ろ過ぎたりしているために軸がしっかりとできない、体を貫かない、ということになる。飯田氏に重心軸が作れている、良い姿勢になるエクササイズをつま先立ち以外で紹介してもらった。そのひとつが片足で立つだけであり、また片足立ちからジャンプするだけ、だという。
「片足での動作は体に軸ができていないと不可能なので自然に良い姿勢が作れます」
不安定な片足立ちでは体が勝手に最適な重心位置を探す。また、片足ジャンプは自然にアスレティックポジションに入ることができる。
走る時の着地は片脚ジャンプの連続のようなもの。それを繰り返す「ケンケン(跳び)」は「着地→ジャンプ→着地」となり、ケンケンが上手くなると効率的なランニングにつながる。
飯田氏がランニングの指導する時、複雑な理論より先に、シンプルに「ケンケン」を行ってもらって教えることも珍しくないという。
片足立ちの発展形とも言えるの「ロー&スローウォーキング」だ。
まず椅子や手すりにつかまって片足立ちになる。股関節とヒザと足首を曲げて低い姿勢をとる。そして一方の脚の、ヒザと足首を90度に曲げて、前後に振り子のように動かす。
反対側の支持脚が足を振る動きにつられて、前後に揺れてしまわないように気をつけること。
それができたら、椅子や手すりにつかまらずに、低い姿勢で歩いてみる。
支えている方の足は足首、ひざ、股関節が均等に曲がったアスレティックポジションをキープし、ゆっくりと歩くようにする。
ときには動きを逆再生するかのように一方前に出しては戻ったり、片足で振り子運動を繰り返したりと、パントマイム的な動きを行うのも良いだろう。
アライメントの整った姿勢が、正しい低い姿勢から導き出されるように、正しい歩きの基礎も低い姿勢から導き出される。
飯田潔の著書「つま先立ちで若返る!」を中心にしてアライメントトレーニングを取り上げてきたが、体のポテンシャルを充分に発揮したり、ケガを予防したりするには、まずアライメントを整える必要があると理解してもらえただろうか。
トレーニング、スポーツ、日常生活と様々な場面で意識してみてほしい。
1969年、東京都出身。「フットトレーナーズ」代表取締役。元日本オリンヒック委員強化コーチングスタッフ。元全日本スキーチーム・テクニカルスタッフ。カラダの動きを考えたシューズ選びやインソール作り、アライメントトレーニングなどでプロアスリートから一般の方までをサポートしている。著書に「つま先立ちで若返る!」(文響社)など。
(株)フットトレーナーズ
取材&文/押切伸一