弱冠19歳で、「日本格闘技界の最高傑作」とまで言われる那須川天心選手(『TARGET/Cygames』所属)。天心選手の強さと人柄の魅力を水道橋博士が掘り下げます。今回の対談の場所は、天心選手がトレーナーをつとめ、父弘幸氏が会長をつとめる、『TEPPEN GYM』。天心選手が世界に向けて牙を研ぐ、かけがえのない場所。水道橋博士は天心選手の熱烈なファン。会場に足を運んで応援をしていますが、ムエタイの最強戦士スアキム・シットソートーテーウとの一戦(2月12日KNOCK OUT FIRST IMPACT:結果は天心選手の判定勝ち)は、両選手の攻防が速すぎて一瞬も目が離せない、スリリングな名勝負でした。話はそこからスタート!
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【KNOCK OUT】
博士の長い観戦歴で、最も夢中になっている天才
――試合中、博士はずっと興奮していましたね。
博士:ボクがタオル(矢沢永吉E.YAZAWAタオルに影響を受けたTENSHINタオル)を持って興奮してるのなんて、格闘技の長い観戦歴で初めてだから。今、55歳で矢沢永吉直撃世代なんだけど、地方から東京に出てくる人はだいたい矢沢永吉の『成り上がり』って本を片手に出てくるの、一旗揚げるぞって。でもボクは珍しくまるで影響を受けてこなかったけど、天心選手の入場曲(「止まらないHa~Ha」)から矢沢さんの曲にハマってるっていう。今さら、YouTubeを見まくりで……。でも、あの選曲はベストです。最高に盛り上がるよ。
天心:あ、本当ですか!?
博士:試合では相手の選手の体幹もすごかったよね!
天心:自分はフィジカルトレーニングをやっていて、今まで体幹の面では負けたことはないんですけど、スアキム選手には体幹でも互角だねとトレーナーに言われて、筋力は向こうの方があると言われていたので、正直怖かったですね。
博士:でも、体幹トレーニングもAbemaTVでレギュラー放送が始まった『VS那須川天心』で見たけど、成長期だから身体にどんどん筋肉がついていくのがよく分かる。
天心:ついてますね。これからもっともっと5、6年は伸び続けると思うんで、楽しみですね。
博士:昔は根性トレーニング、忍耐の一線を越えたところに強さはあるという考えだったけど、その大事さも分かりつつ、最先端のことをやってるよね。
天心:そうですね。根性は必要なんですけど、根性論だけじゃやっぱり勝てないので。技術+根性って感じですね。
博士:でも格闘技の場合は、本当に対戦相手に向かうときの根性というか、殺気というのか、普段の優しい性格とは全く違うね。
天心:まあ、人が変わるとは言われます(笑)。自分がやらないとやられるんで。気合は相当入っていると思います。一番過酷な競技だと思うんですよね、格闘技って。
博士:試合のペースもすごいよね。5月、6月……7月も!? アマチュアを含めると200戦を超えている?
天心:全然越えてます。普通、2カ月に一回で多いほうって思ってますよね。でも自分は1カ月に2回試合したりとか中1日で試合したりとか。アマチュアのころは毎週試合だったので、まあプロとは全然違いますけど、あとはほとんどケガをしていないので。
博士:とはいえ、左足の中指が折れたとか?
天心:折れちゃったんです。スアキム戦の前、もともとちょっと痛くて。でも今回は絶対蹴らないと勝てないって分かってたんで。まあ折れてもいいか、と。
博士:試合中はアドレナリンが出てるから、それほど気にならないって聞くけど?
天心:全く気にならないです。
博士:スアキム戦は今までで一番苦戦した?
天心:苦戦というか強かったです。手応えはメチャメチャあったんですよね。ホント強いなとは思いましたよ。だから試合前も「ワクワクしてます」、とか言ってましたけど、本当はちょっと怖かったです。
博士:手応えがあっても、これでもかって感じで倒れなかったんだ。ムエタイには、ゴロゴロとそういう選手がいるところがすごいよね。「ムエタイのヒクソン」と言われた、サムゴー(サムゴー・ギャットモンテープ、2000年代前半のムエタイ・レジェンド。鉄パイプで殴ったようなキック、と恐れられた)なんて全盛期のちょっと後ぐらいに、もう田舎で(練習をさぼって)携帯を売ってたからね(笑)。ハングリーからサクセスしても、キッチリ環境を整えないと、短期間で辞めちゃう場合があるよね。文化として貧しい人たちが闘っているのは当たり前だから。
天心:日本は格闘技を趣味で始める人が多いですけど、向こうは生きるためには勝たなきゃいけないと。やっぱりそういうのが強いですね。
博士:(サムゴーは)ムエタイを続けていくほうが絶対いいと思うんだけどね、なんで携帯を売らなきゃいけないんだって。
天心:(笑)
(第2回につづく)
1986年にビートたけしに弟子入り、翌年、玉袋筋太郎と「浅草キッド」を結成。芸人としてはもちろん、文筆家としても精力的に活動。『藝人春秋2』(文藝春秋)『博士の異常な健康―文庫増毛版』 (幻冬舎文庫)など著書多数。日本最大級のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』の編集長、またユーチューバーとしても絶賛活動中。
1998年生まれ。「神童」と呼ばれる天才ファイター。RIZEを主戦場に、KNOCKOUT、RIZINで、キックボクシングルールと総合格闘技ルールの二刀流をこなして現在30連勝中無敗。世界中から注目され、格闘技の枠を超えたスーパースターへの成長が期待されている。TEPPEN GYM
構成/押切伸一 撮影/山中順子