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良い指導者、良い上司ってなんだろう?~前編~【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第24回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 世間はお盆休みのようですが、VITUP!は通常営業です。

この仕事をしているとお盆もお正月もあまり関係がありません。365日営業中のような感じで、日々いろいろな出会いがあります。取材ではオリンピック・パラリンピックのメダリストや、プロで何億も稼ぐ選手の取材をすることも頻繁にあり、成功している方々のお話を聞くと、たくさんの気づきがあって感銘を受けます。

こうした取材を通して、気づいたことがあります。すごい選手や偉い人物は横柄なふるまいをしたり、偉そうにしたりすることは一切ないということです。本当にすごい人は虚勢を張る必要がないから、誰に対しても謙虚に優しく接することができるのでしょう。

もともと格闘技の世界で生きてきた私は、若い頃は血気盛んで誰に対しても「絶対になめられたくない」と思っていました。その結果、虚勢を張り、自分を偉く見せようとしていた時期もあります。幸いだったのは、さまざまな取材を通じて、素晴らしい人物たちと触れ合ってきたことです。

世界のホームラン王・王貞治さん、演歌の大御所・北島三郎さん、車いすテニスのレジェンド・国枝慎吾選手、人間国宝・石田不識さん、MLBで活躍する大谷翔平選手、ジャンプの高梨沙羅選手、卓球の福原愛さん……etc。数え上げたらきりがありませんが、すごい人は決して偉そうにすることはありません。こうした出会いを通じて心を洗われ、心を磨き、いつも謙虚に人に優しくすることを心掛けるようになりました。

現在の私は自分より立場の弱い人間を無意味に怒ることはしません。なぜならその先にはポジティブな要素が一つもないからです。たとえば、チャレンジした失敗を叱責してしまったら、怒られた側はどう感じるでしょうか? 「怒られたくないからやらない」あるいは「怒られないように当たり障りのないようにやる」という考え方になってしまう可能性があります。チャレンジすることを恐れさせてしまったら、その先の成長は見込めません。人は間違えるし、失敗する生き物です。成長過程での失敗は必要なことなので、それを次へのエネルギーに向けられるような指導をするようにしています。

(C)zphoto83 – stock.adobe.com

これはスポーツでも同じではないでしょうか。指導者が自分の威厳を示すように選手を怒鳴ったり、失敗をネチネチと責めたりしていたら、ポジティブなエネルギーが生まれるはずがありません。ここ最近はいろいろな競技で指導者のパワハラ問題が取りざたされています。ニュースで取り上げられる、そうした指導者の姿や言動を見ていると、選手への愛が感じられないんです。大事なのは自分の看板。「オマエら俺の看板に傷をつけるんじゃないぞ」という“俺様感”を強く感じてしまいます(直に接したわけではないのでイメージですが)。

ボクシング連盟の山根明前会長、日大アメフト部の内田正人前監督、至学館大学レスリング部の栄和人前監督……ここ最近のニュースでは、スポーツ界の悪いところばかり取り上げられますが、ネガティブキャンペーンには賛成できません。スポーツ界には素晴らしい指導者の方もたくさんいます。私は見習うべき人物にもっとスポットを当てたいと思っております。

先日、文大杉並高校ソフトテニス部の野口英一監督と、数時間にわたってお話をさせていただく機会がありました。同校は残念ながらインターハイ3連覇を逃してしまいました。野口監督とお会いしたのは、そのインターハイから帰京直後のこと。悔しさはあったはずですが、監督の口から最初に出てきたのは、3連覇を逃したことよりも、酷暑のなか戦った選手たちへの労いの言葉でした。

選手の入れ替わりがある高校生年代でありながら毎年好成績を残せる秘訣は、こうした選手への愛情の部分にもあることは間違いありません。この野口監督の選手育成に対する考え方については、次回のコラムで紹介したいと思います。

それではまた来週。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。