良い指導者、良い上司ってなんだろう?~後編~ 【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第25回】

VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

前回のコラムで予告した通り、今回は文大杉並高校ソフトテニス部の野口英一監督の指導論について書いていきたいと思います。

はじめに野口監督の指導実績を紹介しておきます。2003年に文大杉並高校監督に就任すると、同校を32年ぶりの全国選抜優勝に導き、全国大会上位進出の常連校に育て上げます。2016年には教え子の林田リコ&宮下こころペアが2年生で高校三冠(選抜・インターハイ団体&個人・国体)を達成。翌2017年にはインターハイ団体・個人と国体2連覇に加え、林田&宮下ペアが、67年ぶりに高校生での全日本制覇という快挙を成し遂げました。今年はインターハイ団体3連覇こそ逃したものの、個人では小林愛美&原島百合香ペアが優勝を飾っています。

毎年選手が入れ替わるなかで常時好成績を残す指導の原点は、中学生を指導していた時代にあると言います。指導者としてのキャリアのスタートは、日野第二中学校でのいわゆる中学部活。部員は全員が中学からソフトテニスを始めた初心者で、就任当初はテニスコートもなく近所の公園が練習場所という環境。初心者が部活の限られた練習時間で、小学生から経験を積んできた選手を3年足らずで逆転することは、決して容易ではありません。そうした条件のなかでチームを全国大会優勝に導いたのです。

「スポーツなのでまず楽しいということが大事。自分でやってみてこれは面白い、また明日もやりたいと思うこと。子どもたちがそういうスタートを切れるようにしたいと思っています。楽しむためにはボールを打ってみること。素振りや正しいフォームも大事ですけど、まずは打ってみればボールがどう飛ぶかもわかる。打つ楽しさがわかったら、今度は枠の中にどうやって入れるか自分で考えさせます。一から十まで教えるのではなく、自分で考えて実行することを最初に覚えさせるようにしています」

自分で考えさせるというのはすごく大事なことです。これはスポーツに限らず、何をするにしても同じではないでしょうか。最初から答えを教えてしまったら、考える力が育ちません。つまりそれは成長する力を奪うこととイコール。だから答えを教えるのではなく、あくまでも答えを導く出すためのヒントだけを教えるのです。

すべてを教えないのは、3学年の男女すべての選手を満遍なく見るのは、物理的に難しいという事情もあります。最後の全国大会で勝つためにはどうしても指導の中心は3年生。その3年生には技術面だけでなく、下級生の憧れの存在になれるように指導しているそうです。

「下級生は3年生の試合を見て、自分もああいうふうになりたいと感動する。その感動は大きなエネルギーになります。そうやって下級生から憧れられる存在になれるように3年生には指導します。そのためには強い、うまいだけではなくて、人間的に尊敬される選手でなければいけません。コート整備は一番多く使う3年生が率先してやる。誰にでも優しくて、下級生のことも考えることができて、それでいて自分のプレーもしっかりやる。そういうことを心掛けていれば、必然的に憧れられる選手になるし、試合のときに応援してもらえる選手になることができます」

3年生が見本となって、いい伝統をつなぐ。それが常時強いチームをつくる基盤となっているということです。技術面でいうと、直接指導をあまり受けられない1~2年時に自分で考えることが身につき、また、教えてもらいたいという欲求も高まっているため、指導を受けたときの吸収が早いという利点もあるようです。

昨年高校生で全日本を制した林田リコ選手(右)&宮下こころ選手(左)と野口監督(Ⓒベースボール・マガジン社)

文大杉並高校で指導をするようになってからも、根本は変わっていません。ああしろ、こうしろとトップダウン型で指示するのではなく、選手が自主的に考えて目標に向かって取り組むというボトムアップ型。3年生が見本となって伝統をつくっていくことも同じです。

同校の練習に何度かお邪魔させてもらった際、「3年生が下級生の見本になるように」と指導している野口監督自身が、生徒たちの見本になっているようにも感じました。簡単に言うと、温かさに満ち溢れているのです。

指導者としてこれだけの結果を残してきても、おごった態度を見せることはありません。高校生で全日本チャンピンに輝いた林田&宮下ペアについて聞くと、「私が育てたなんておこがましい。彼女たちが努力した結果です」と選手を称え、インターハイ団体3連覇を逃したことについては「これだけ暑いなかで選手たちはよく頑張りました。もう少し私がうまくやれればよかった」と自戒する。

手柄は選手のもので、ミスは自分の責任。こんな指導者のためなら、選手がなんとしても勝ちたいと思うのでは当然ではないでしょうか。権力に物を言わせるパワハラ指導を受けた選手が頑張るモチベーションは「怖いから」、「怒られたくないから」というネガティブなものです。一方、野口監督が指導する選手たちは「監督に喜んでほしい」、「監督に認められたい」というポジティブなモチベーションでプレーしています。どちらがいいかは言うまでもありません。

ここ最近、スポーツ指導者のネガティブ報道が続いていたなかで、野口監督の指導姿勢に触れることができて、心が洗われました。

野口英一監督監修の『身になる練習法ソフトテニス~攻撃力を高める技術と戦術』(ベースボール・マガジン社刊。定価1,500円)は8月26日発売です。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。