「合成」を高め、「分解」を抑えるのがポイント
トレーニングやダイエットを真剣に頑張っている人なら、おそらく「食事」も気にしていることでしょう。
これまでも書いてきたように、極端なカロリー制限はむしろ逆効果で「やせにくく、太りやすい体」をつくってしまうことにもなるので、食事のしかたには注意が必要です。
私は栄養学の専門家ではないので、ここではあくまでも「筋肉や脂肪に対する効果」という観点で、食事について解説していきたいと思います。
筋肉の材料はタンパク質。筋線維の中ではそのタンパク質の合成、もしくは分解がつねに起こっています。筋肉を育てていくには、その合成が分解を上回る時間帯が増える必要があります。
面白いことに近年の研究によると、合成が高まると分解が自動的に抑えられ、分解が高まると合成が自動的に低下する、というシーソーのような仕組みがあることがわかっています。これは非常に都合のいいメカニズムです。
そして、合成を高めるスイッチはいくつかありますが、「食事」もその一つなのです。
いきなり効果的な方法を紹介してしまいましょう。
それは、1回の食事量を減らして、そのかわり回数を増やすこと、です。
食事を摂った直後は、それが刺激となってタンパク質の合成が高まります。しばらくはその状態が続きますが、少しずつ形勢が逆転し、やがて分解が優位な状態になっていきます。そして次の食事までの時間は分解が続くということになります。
そこで食事と食事の間隔をあまりあけないようにすると、分解の時間を短くすることができます。食事を刺激として、タンパク質の合成を高める機会も増えるのです。
ただし、カロリーを摂りすぎると脂肪が増えてしまうので、1回の食事の量を減らすわけです。
実際、ボディビルダーなどは1日6食くらいの食事を摂っています。私も現役時代はそうでした。
毎回普通の食事を摂るのは時間的にも金銭的にも大変なので、中心となる朝食・昼食・夕食以外はプロテインや軽食で補います。朝食と昼食の間、夕方、就寝前などはプロテインだけでも十分。それを含めて6食ということです。
一般の人の場合、毎日6食というわけにもいかないかもしれません。その場合は、朝食・昼食・夕食をしっかり食べ、トレーニング後にプロテインを摂るくらいでもまったく問題ありません。それだけでもプラス効果はあると思います。
昔のプロテインは味もいまいちで、水に溶けにくいものが多く、苦労したものでした。しかし最近は良質で美味しいプロテインが増え、水に溶かしてしっかり混ぜれば塊が浮いてくるようなことはほとんどなくなりました。さらにコンビニやスーパーに手軽に食べられるチキンのパックやシリアルバーなどもあります。これらを利用すれば、忙しい人でも短時間で栄養を補給し、合成のスイッチを入れることが可能でしょう。
昼と夜だけドカ食いすると太る。そんな話を聞いたことがあると思いますが、これは上記の「1日6食」とは真逆の食べ方なので、その通りのことが起こると考えられます。
実際、やせてしまうと仕事にならない力士は、1日2回の食事が普通。そのかわり、栄養たっぷりの「ちゃんこ」をおなかいっぱい食べます。
食事をすると、体温が上がり、消化器系の動きも活発になって代謝が上がるという現象も起こります。食事誘発性熱産生と言います。つまりエネルギー代謝を高め、脂肪を燃えやすくするという点においても、食事を増やしたほうが効果はアップするのです。
もう一度言いますが、重要なのはタンパク質の「合成」を高め、「分解」をなるべく抑制すること。「筋肉をつけて、脂肪を減らしたい」という人は、「食事を小分けにして、回数を増やす」ようにしましょう。
食事の美味しさを味わうことも人生の喜びですが、本気でカラダづくりをしている人には「食事はタンパク質合成のスイッチ」であるという認識も必要です。
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP
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