ナンバーワン・スペクテイタースポーツ、サッカー
インドネシアのスポーツ事情、今回は日本で人気のプロスポーツである、サッカーと野球についての話を紹介する。
社会が豊かになれば、見るレジャーとしてのスポーツが盛んになるのは必然だ。観るスポーツとしてのサッカーは、もはや国民的スポーツとも言えるほどに人気を博している。プロ化は1994年というから、日本のJリーグ(1993年)とほぼ同時期だ。現在「リーガ1」と呼ばれているトップリーグは多くの観客を集めている。ビッグゲームだと5万人くらいは普通に入るらしい。これまでここでプレーした外国人選手の中には、日本人もいて、Jリーグでは成しえなかった「インドネシアン・ドリーム」を手にした選手も少なからずいる。
サッカー人気を反映して、スタジアムは日本のそれにひけをとらないくらい立派なものが多い。今回のアジア大会では、リーガ1屈指の名門チーム、ペルシジャのホームでもあるこの国一番のゲロラ・ブン・カルノ競技場はサッカーには使用されず、郊外のパサンカリ・スタジアムでゲームが行なわれた。準決勝・決勝などが行なわれたジャカルタから60キロ離れた避暑地であるボゴール郊外のこのスタジアムも、サッカー専用ではないものの、収容3万人を誇る世界水準のスタジアムで、ここで森保ジャパンは、決勝では韓国に敗れたものの、銀メダルを獲得した。
私は、UAEとの準決勝を観戦したが、トップ代表が集う大会ではなかった上、メインの競技場が公共の交通機関だとジャカルタ市内から3時間弱かかるとあって、残念ながら地元インドネシア以外の試合は大入りというわけには行かなかったが、場内では目の肥えた地元ファンも存分にゲームを楽しんでいた。
ちなみにインドネシアのFIFAランキングは164位。人気に実力が伴っていないのが実情だ。このアジア大会ではグループリーグは突破したものの、決勝トーナメントでは、1回戦では銅メダルに輝いたUAEの前に敗れ去っている。それでも、サッカー人気のほどは、町を歩いていてもわかる。夕方の横丁を歩けば、ちょっとした空き地で子どもたちがサッカーボールを蹴ったり、ミニゲームをしたりしているのをいたるところで見かけた。
意外な野球人気と普及度
日本ではサッカーを凌ぐ人気を誇る野球だが、ここインドネシアではまったくのマイナースポーツと言っていいだろう。今回のアジア大会でも野球は行なわれたが、プロ選手が出場しないとあって、日本ではあまり報道もされなかった。ここインドネシアでも注目度は低く、スタンドは閑古鳥が鳴いているかと思いきや、日本やプロ選手が参加している韓国や台湾の試合では、1700人収容のゲロラ・ブン・カルノのメイン球場はけっこうな入りだった。日本と韓国で争われた決勝は、なんと大入り満員。観客の多くは、出場国である日本人、韓国人だったが、半分弱は意外なことにインドネシア人だった。
実はこの国には、2万人の野球人口がある。さらにソフトボールも盛んで、このアジア大会の地元観衆のほとんどはルールを理解している競技経験者だった。決勝戦では、ユニフォーム姿の少年少女が、おそらく初めてみるだろうハイレベルな野球に目を輝かせていた。また、球場ボランティアのほとんどもまた競技経験者で、ボールボーイの少年たちは、毎日、試合前の練習に見入っていた。
とはいえ、日本で人気の野球もここではまだまだマイナースポーツ。このアジア大会にも代表チームが出場したが、1次リーグに当たるラウンド2では3戦3敗。プロ選手が参加している韓国、台湾にはともに15-0でコールド負けを決している。ラウンド2各組下位チームによる順位決定ラウンドでも、新興国実力ナンバーワンのパキスタンには大敗を喫したが、予選ラウンドから勝ち上がってきたタイ相手に大会初勝利を挙げ、参加10チーム中7位になった。
取材&文&撮影/阿佐智