「成功体験」と「先行体験」。子どもの習い事や学校部活は社会に出ていくためのステップ【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第32回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

先日、一児の父親となった後輩と会う機会がありました。子育てに関する話をいろいろしているなかで、話題となったのが習い事。子どもには何を習わせたらいいのか?という話です。我が家では水泳、ピアノ、英語、体操をまずは習わせました。水泳や体操は全身運動だから運動能力を養うのにいい。ピアノは指を動かすから賢くなる。英会話は小さいうちから始めたほうが覚えがいい……といったポジティブな話を聞いていたからというわけではありません。単純に通いやすい場所にあったというのが最大の理由です。

子どもたちが小学生になり自我が芽生えてからは、やりたい習い事を本人に選ばせて、継続するもの、辞めるもの、新たに始めるものを決めるようにしていました。その際、気をつけていたのは、辞める習い事を中途半端にしないということです。たとえば、「1級まで取ったら辞める」、あるいは「発表会までは頑張る」という具合にゴールを決めて、そこまではしっかりやりきった上で、次のことをやらせるようにしていました。

こうする理由は、連載第26回で書いた継続の話と同じです。つまらなくなったから辞める。うまくならないから辞める。このように中途半端な理由でドロップアウトすると、困難にぶつかったときに逃げることを第一選択肢にするようになってしまう恐れがあります。壁に当たったときに逃げることを覚えてしまうと、乗り越える努力をすることなく逃げ続けることになります。そうならないために、なんでも決めたところまではやりきることを重視していました。習い事を通じてやりきることを覚えるのは大切なことだと思います。

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小学生のうちは、やりきることで、「昇級」という結果による成功体験や「ここまでできた」という達成感を得ることが大事です。まずは喜びを知ることが、何かをやる上でのモチベーションになるからです。その一方で中学や高校の部活、競技スポーツでは、負ける悔しさを知り、挫折を味わうこともあると思います。次のステップとしては、負けを知ることも必要です。

元東海大相模高校柔道部監督で、井上康生、高藤直寿、羽賀龍之介といった世界王者を育ててきた林田和孝先生は、「先行体験」という言葉で、負けることの大切さを表現しました。以下は林田先生の言葉です。

「学校を卒業すると、人は競争社会に放り込まれます。そこでは“失敗をしたから会社を辞める”ではなく、その失敗を次に生かしていくという姿勢が重要になります。いかなる競技スポーツでも“常勝”はありえません。世界王者になった選手でも必ず負けることを経験しています。競技スポーツでは“負けたから辞める”という選手はほとんどいません。多くの選手は負けを教訓に次の目標に向かって努力を重ねていきます。スポーツは負けることで、社会で必要とされる姿勢を自然と養うことができます。私はこれを“先行体験”と呼んでいますが、これこそが競技スポーツの良さだと思います」

失敗や敗戦を糧に努力する経験を社会に出る前に体験する。だから先行体験。社会に出たら楽なことばかりではありません。学生時代に競技スポーツを通じて、負けて悔しさを味わうことや、挫折して苦しみを感じる経験をして、そこから立ち上がることを学ぶ。多くの企業で体育会経験者が重宝されるのは、こうした先行体験による部分も大きいのかもしれません。

小学生のうちに成功体験とともに壁を乗り越えることを学び、中高生では負けることを経験し、そこから立ち上がることの大切さを知る。成功体験と先行体験を併せ持つことで、きっと社会でも強く生きていくことができるのだと思います。子どもの習い事で大事なのは、何を習うかではなく、そこから何を学ぶかなのでしょう。

ちなみに後輩には、こんな真面目な話はしていません。私から彼へのアドバイスは「習い事はお金がかかるぞ」でした。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。