風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、使い方を間違えると大変! この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。
Q.薬を飲むと眠くなるのはなんで?
薬を飲んだら眠くなって仕事や勉強ができなかった。そんな経験がある人もいるでしょう。薬を飲んで眠くなる理由は、簡単に言うと副作用です。
副作用としての眠気を引き起こす薬の代表格は、抗ヒスタミン薬、いわゆるアレルギーを抑える薬です。悪名高い「花粉症」もアレルギーの一種ですので、花粉症の予防や治療のため抗ヒスタミン薬を処方された方も多いと思います。また、市販の総合感冒薬などにも含まれていることが多いので、服用時のTPOには注意を払いたいものです。
まず、抗ヒスタミン薬による眠気を理解するためには、花粉症がなぜ起きるのか理解していただく必要があります。アレルギー反応は、ザックリ言いますと、体内へ侵入した異物を取り除くために起こります。例えば、花粉が体内に侵入すると、「肥満細胞」が花粉の侵入を察知し、「ヒスタミン」という物質を花粉侵入現場に放出します。放出されたヒスタミンは、周辺の血管に作用し血管に隙間を作り、その隙間を通って免疫細胞が現場に到着、そのとき、一緒に血管から体液が漏れ出し鼻水や涙に含まれて花粉は流れ出ます。また、周辺の神経に作用すると、引っかいたりくしゃみにより花粉を取り除こうとします。
ヒスタミンが、このような反応を引き起こすには、血管や神経に存在するヒスタミン専用の鍵穴に結合する必要があります。H1~4の4種類の鍵穴が見つかっていますが、アレルギー専用の鍵穴はH1です。ちなみに、H2は、胃にだけ存在し胃酸を分泌させるための鍵穴で、CMでおなじみの“ガスター10”はH2とヒスタミンが結合するのをブロックし、胃酸の分泌を抑える胃薬です。このように、ヒスタミンは、種類の違う鍵穴を使っていろいろな役割を果たしているのです。
話はそれましたが、では、なぜ抗ヒスタミン薬では眠気が起こるのでしょうか? 一言で言いますと、H1は脳にも存在しているからです。H1の脳での役割は、アレルギー反応の場合とは異なり、覚醒の促進や食欲の抑制、かゆみの促進などです。抗ヒスタミン薬が脳内に移行しますと、H1を阻害し、覚醒の促進の反対、即ち、鎮静状態を作り出します。簡単に言いますと、眠くなってしまうのです。風邪のときなどは、ゆっくり休むことができるので、抗ヒスタミン薬の副作用がプラスに働くかもしれません。
ただし、仕事があったり、車を運転したりするときは、眠くならない薬を使用したいと思うものです。最近では、アレルギー部位だけで作用して、脳内に移行せず眠気をほとんど引き起こさない抗ヒスタミン薬も増えてきています。春になるとよくCMで見かける「アレグラ」は、脳内にほとんど移行しないことが証明されており、アレルギー症状は抑えてなおかつ眠くなり難いということで広く使用されているようです。
今回は抗ヒスタミン薬を取り上げましたが、眠気の副作用が知られている痛み止めなどの処方薬がありますので、医師や薬剤師の説明をきちんと聞くことをお勧めします。
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長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社