「糖質カット」はダイエットとして正しい方法? ☆石井直方×中野ジェームズ修一☆SPECIAL TALK #3




糖質を完全カットして筋肉が萎えてしまったら、逆にリバウンドしやすい体になる

中野:それが違うんですよ。食事の前菜として出てくる感じです。飲み物はコーラですね。その後、ラーメンが出てくるみたいな(笑)。

石井:私は北里大学の糖尿病センターと筋トレの共同研究をやっているんですけど、糖尿病の人に対しても、どのくらいの糖質なら摂ってもいいかという判断は難しいようです。ですから一般の人の適量というのはなかなか明確にできないと思います。摂りすぎがよくないのは当然なんですけど、完全にカットして筋肉が萎えてしまったら逆にリバウンドしやすい体になってしまいます。その人の生活習慣によっても変わってくると思うので、ちょうどいいところというのは個々が試行錯誤するしかないような気がしますよね。

――万人に合う正解はない。

石井:そう思いますね。

中野:私も栄養指導をする時は、その人が炭水化物が好きなのか、糖を摂りすぎているという認識はあるのか、といったリサーチをした上で、自分で気づいていくように心理学的なアプローチを意識しています。でも、そこでいつもメディアの情報が邪魔をするんですよ。「中野さんはそう言うけど、テレビではこう言ってました」とか「ユーチューバーはこう言ってました」とか(笑)。最終的にどちらを信じるかは本人次第でいいんですけど、皆さんやっぱり迷ってしまいますね。

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石井:実際には、本人が糖質をカットしているつもりでも食事にはそれなりに入っていたりしますから、体の中でどのくらいの糖が減ったかはわかりにくい面もありますよね。筋肉や肝臓が糖質をグリコーゲンとして貯蔵しようとする反応はけっこう強いんですよ。ですから摂取した糖質の余分なものがグリコーゲンとしてローディングされる状態がつねにキープされていて、体の中で糖質が余剰にならないようにコントロールされているのがポイントだと思いますね。

中野:余剰になってしまったら、どう消費するのかということですよね。そこで運動が効果を発揮する。

石井:余剰になった分は脂肪の合成にも使われますが、すでに太っている人は脂肪を合成するキャパがなくなってしまっています。すると処理できない糖質が残ってしまって糖化ストレスという悪いストレスを生み出してしまう。ですから脂肪にも余力がある状態――つまり倉庫として機能できるような状態にしておくことも重要ですね。

<第4回に続く>

取材・構成/本島燈家
写真/神田勲

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
1971年、長野県出身。PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛、テニスの伊達公子、バドミントンの藤井瑞希など多くのアスリートを指導。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍を続ける。技術責任者を務める東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設『CLUB 100』は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され、活況を呈している。主な著書に『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)、『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレシリーズ』(徳間書店)などがある。