「走った距離」は裏切る? 裏切らない? ☆石井直方×中野ジェームズ修一☆SPECIAL TALK #4




人間ってチャレンジ精神がある生き物なんだなって

中野:だんだんタイムが上がっていくとか、フルマラソンに挑戦できたといったことが、精神的な安定、成長の実感ということにつながることはあると思います。そのあたりは筋肉がついてくるのと同じですよね。

石井:たしかに、どのくらい走ったかというのは数値化できるので、目標達成の目安になりますよね。でも僕ら世代の中学高校の頃を考えると、ランニングってつらいだけで嫌いでしたけどね(笑)。

中野:そうですよね(笑)。

ランニングは日本の国民性に合っているのか、大人になってから走る楽しみを知ったという人も多い。Ⓒwooooooojpn‐stock.adobe.com

石井:大人になって走りはじめたら意外と走れることを実感したりして、だんだん楽しくなっていくというプロセスがあるかもしれませんね。昔走るのが嫌いだったからこそ、大人になったらハマってしまうとか。

中野:そうなんですよ。ランニングにハマる人って昔は運動音痴だった人も多いんです。ランニングって特別な技術が必要ないですから、続けていれば誰でもそれなりに結果がついてくるということもあります。それが大人にとっては楽しいんじゃないですかね。

石井:部活では遅れると怒られたりしますけど、自分だけの世界でマイペースで走れるというのが楽しいんでしょうかね。それでどんどん好きになって、どんどん走りすぎてしまうのかな(笑)。

中野:他人との比較ではなく、自分のタイムとの比較ですからね。それは現代人には向いているのかなと思います。だからこそ、その楽しさを味わい続けるために、走りすぎないように気をつけてほしいんですよ。

石井:ヒザが痛くなったりして走れなくなったら、元も子もないですからね。

中野:続けられることが大事ですからね。皆さん、たぶん最初は体型を変えたいとか、健康になりたいといった動機ではじめると思うんですよ。でも、最終的には自分へのチャレンジになっていくんですよね。多くの人がどんどんタイムや距離をのばしていこうとするのを見ると、人間ってやっぱりチャレンジ精神がある生き物なんだなって実感しますね。

<第5回に続く>

取材・構成/本島燈家
写真/神田勲

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
1971年、長野県出身。PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛、テニスの伊達公子、バドミントンの藤井瑞希など多くのアスリートを指導。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍を続ける。技術責任者を務める東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設『CLUB 100』は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され、活況を呈している。主な著書に『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)、『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレシリーズ』(徳間書店)などがある。