10年以上のロングセラーとなっているトレーニー必読書に新作が誕生。
『筋肉まるわかり大事2』(ベースボール・マガジン社)は、筋肉の基本的なしくみを知りたい人から、本格的な肉体づくりを志す人まで、あらゆるニーズに応える211のQ&Aで構成され、前作を上回る456ページの大ボリュームとなった。
一家に一冊おいておきたい話題の書について、著者である東京大学・石井直方教授にインタビュー。
――今なお重版が続いている前作の発売から11年。本作もさまざまな角度から筋肉の最新情報やトレーニング法などが解説されていて、読みごたえがありますね。
「基本的な疑問から、かなり専門的な内容まで、幅広い内容になりました。世の中の筋肉に対する関心がどんどん高まるにつれて、いろいろな情報や知識もネット上にあふれています。知りたいことにアクセスしやすくなったのはいいことですが、どれが正しくて、どれが怪しげなのか、そのあたりの境目がわからなくなっているという面も否めません。そういう中で、私の長年の研究生活に基づいてエビデンスの確かな情報を選りすぐって紹介したというのが、本書の重要なポイントだと思います。世の中が求める筋肉の正しい知識を集大成したものと考えていただいてもいいでしょう」
――正しい知識。まさに世の中が求めているのはそこだと思います。
「実際には、明確に答えられなかった質問もありました。身近な存在である筋肉ですが、まだまだ知られていない部分がたくさんあるということですね。エビデンスがないもの、研究中のものなどに関しては、現在わかっている範囲でお答えしています」
――不確かな情報に惑わされにくくするために、本書が一つの道しるべになるといいですね。そもそも「間違った情報」が流れてしまうのは、なぜなのでしょうか。
「その人の“経験から得た知識”ということでは、必ずしも間違いではないと思います。まして長年にわたって伝えられてきているものは、おそらく正しい可能性が高いでしょう。ただ、経験というのは一人一人違うものですし、ある人には効果があるけれども別の人には効果がない、ということもあります。病気の治療にも言えることですが、体質や遺伝子の違いなどで適切な対処法が変わってくることもあると思います。それを一つ一つ試していると時間がいくらあっても足りないので、“正しい情報”“普遍的な知識”を提供するために、“なぜそうなるのか”ということも含めて我々のような研究者が検証し、エビデンスとして示していくわけです」
――たとえば本書に出てくる「低負荷・高回数のトレーニングでも、しっかりオールアウトすれば筋肥大効果がある」という情報は基本的な筋トレ知識のように思いますが、実際にはここ10年ほどの研究でエビデンスが示されたんですよね。
「そうですね。昔のスポーツ選手はそれを信じてやっていたと思いますが、一度は科学的に否定された時期がありました。でもさらに研究が進んだことで、効果が立証されたということですね。そのようにして少しずつトレーニング科学は進歩していますが、その進みは決して速くはないと感じます」
――トレーニングやスポーツの現場では、つねにいろいろなトレーニングが編み出されたり、改良されたりしています。ベストを追求する姿勢の表われだとは思いますが、その中にも曖昧な知識が含まれている場合が多いのでしょうか。
「もちろん、あり得ます。“事業化”ということを考えると、科学的究明と並行して、あるいは圧倒的に先行して走るケースが多くなってしまいます。エビデンスをしっかり調べようとすると時間がかかるので、それはどうしても後追いということになってしまいがちなんです。一つのトレーニングの発案、開発、効果の検証を行ない、その後に事業として展開していくという順序でやっていくと、おそらく10~15年はかかると思います。スロートレーニングもアイデアとして出てきたのは2000年くらいでしたが、研究成果として論文になったのは2005~2006年。本になって一般に広まってきたのは2010年頃からでした。でも事業をする場合、それでは遅すぎるんですよね。ですから、どうしてもエビデンスが出る前にスピード優先で展開してしまうという傾向はあると思います」
――手軽さ、目新しさなどがあれば注目されますからね。
「そうなんですよ。しかも変なものほど目立ちますから、今まで考えられなかったもののほうが流行りやすいと言えるかもしれません。いろいろなダイエット法がメディアで紹介されるたびに、それを試すのが趣味になっている人もいるようですしね(笑)」
――本格的なアスリートや筋トレ愛好家はもちろん、女性のダイエット、中年のメタボ予防・改善、さらに高齢者の安全な筋トレ法を求める声も強くなってきていますが、あらゆる世代、あらゆるレベルのトレーニーにとって本書はプラスになると思います。せっかくがんばっても、望んでいた結果が得られなかったら残念ですからね。
「トレーニング法などの実践本はたくさん出ていますが、情報や知識をまとめたものは、ほとんどないんですよね。もちろん実践も大事なんですが、運動やトレーニングは単にやればいいというわけではなく、目的があって行なうものです。これをやると、どうなるのか。どういうメカニズムで、そうなるのか。そういったことをしっかり理解していると、ずいぶん効果も違ってくるはずです。理屈がわかれば、工夫のしかたも明確になりますしね」
――最近急増しているトレーナーの資格取得者にも役立つ情報が詰め込まれていると思います。
「指導者は引き出しをたくさん持つことが大事ですからね。ある特定の主義・思想に心酔して、それしか教えられないというのではまずいと思います。それが合う人ならいいですが、合わないケースも当然出てくると思いますので。なるべく多くの知識を得て、いろいろな場合に対応できることが、これから求められる指導者の人材像でしょうね」
――パーソナルトレーニングという言葉が浸透してきていることからも、今後は筋トレやスポーツトレーニングのオーダーメイド化も進みそうですしね。
「そうですね。アスリートでなくても、おそらく人によって目指すものは違うと思うんですよ。それぞれの要求に応えるのは大変だと思いますが、まずは真偽を見極める目や、いろいろな角度からアプローチできる対応力が重要になってくると思います。本書がその一助になれば幸いですね」
インタビュー/編集部
『筋肉まるわかり大事典2』
単行本(ソフトカバー): 456ページ
出版社: ベースボール・マガジン社
発売日:2019/7/18
価格:本体2,700円+税
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