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スポーツ深読みシリーズ~アーチェリー【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第75回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 気づけば東京2020オリンピック・パラリンピックまで1年を切りました。6年前の9月に東京オリンピック・パラリンピック開催決定の瞬間を取材したときは、まだまだ遥か先の話だと思っていましたが、あっという間に時間は過ぎていきました。というわけで久しぶりの「スポーツ深読みシリーズ」をお届けしましょう。今回クローズアップするのはアーチェリーです。

日本のアーチェリーは2012年ロンドンオリンピックで古川高晴選手が銀メダル、女子が団体で銅メダルを獲得するなど、世界で闘える実力をもっています。簡単に競技の説明をすると、アーチェリーは弓で矢を射て標的(ターゲット・フェイス)を狙う射撃競技で、標的に刺さった矢の点数を競うものです。種類はいろいろあるのですが、オリンピック・パラリンピックでは、屋外の平らなグラウンドで「ターゲット・アーチェリー」が行なわれます。使用する弓の形によって、リーカーブ(的までの距離70メートル)とコンパウンド(的までの距離50メートル)にわかれていて、オリンピックはリカーブのみの開催となります(パラリンピックは両方)。

(C) Guillaume Louyot .adobe.com

さて、オリンピック・アーチェリーの特徴を紹介していきましょう。野球で右打ち、左打ちがあるように、アーチェリーにも矢を持つ手で右射ち、左射ちがあります。この射ち方を決めるときは、利き手ではなく利き目で決めるのが一般的だと言います。アーチェリーは照準器を見る目が大事なので、利き目で照準器を見やすい射ち方を選択するのです。しかし、例外もあります。アーチェリーを国技とし、リオデジャネイロオリンピックで金メダルを独占した韓国の選手は、利き目に関係なく全員が右射ちです。これは国として技術指導を一貫するために、選手は最初から右射ちとして指導しているからです。こうした強化の徹底ぶりが好成績につながっているのでしょう。

止まって射っているだけのように見えるアーチェリーですが、実は肉体的にもけっこうハードなものです。オリンピックの場合、ランキング・ラウンドと呼ばれる予選は、出場する64選手が一斉に行ないます。1エンドの制限時間は4分で6射。これを全部で12エンド(計72射)行ない、得点順に1位~64位までの順位を決定し、決勝ラウンドの組み合わせを決定します。

このランキング・ラウンドは1エンド(6射)が終了すると、選手たちは70メートル先にある的まで歩いていって自分で矢を抜きます。集中しながら各エンド6射行ない、終わるごとに矢を取りにいくという行為を12エンドまで繰り返すのです。精神的にも肉体的にも負荷が大きいことがうかがえます。ちなみに矢を抜きにいく際に、同的の選手とお互いに採点をします。また、ランキング・ラウンドは一般公開もされないため、予選で何が起きているかは選手にしかわからないような状態なのです。

アーチェリーの大きな特徴であり、難しさや魅力でもあるのが、屋外で行なうということ。当然、雨が降ることがあれば雪が降ることもあり、風が強い日も灼熱の暑さの日もあります。基本的に大雨でも強風でも競技が中止になることはありません(競技が中止になるのは台風や雷が激しい時くらい)。悪条件のときは雨や風の影響を計算しながらプレーすることになるため、番狂わせが起こりやすいというのも見る側にとって面白い部分でもあります。事実、リオデジャネイロオリンピックでは、予選で世界記録を出した選手が、コンディションの影響を受けて決勝トーナメントでは2回戦で敗れるという波乱がありました。

自然と闘いながら相手とも闘い、そして自分とも闘うのがアーチェリーです。東京2020オリンピック・パラリンピックの会場となるのは、夢の島公園アーチェリー場。そのピリピリ、ジリジリするような緊張感に注目してみてください。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。