心身健康俱楽部・枝光聖人の 「これならできる! はじめての筋トレ」~第1回 筋トレできない9割の方へ

筋力トレーニングはアスリートのものだけではありません。少子高齢化、医療費の増大が問題化されるなかで、いつまでも現役でいるための健康づくりに筋トレは欠かせません。この新連載では、中高年を専門としてパーソナルトレーニングを行う心身健康倶楽部の枝光聖人さんに、健康寿命を保ち、年を重ねても、生き生きとした暮らしを送るための身体づくりのヒントをお話いただきます。

筋トレが続かない理由は…

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40代、50代になって体力が落ちるようになってきた。「これはマズイ」と思ってジムに通い始めたものの、数ヶ月で挫折…といった経験をした中高年は多いのではないだろうか? でもそれが、実は“自分のせいではない”かもしれない。ジム通いや筋力トレーニングが続かない原因について、中高年専門のパーソナルトレーニングジム「心身健康倶楽部」を主宰する枝光聖人さんはこう指摘する。

「筋トレはここ数年ブームになっていて、TVや雑誌などを見て、中高年の方も運動をしなければとジムに入会します。しかし、いきなりベンチプレスで重いバーベルを上げようとするなど、若い人やアスリートと同じトレーニング内容をしてしまう。当然、できるわけがなくて、挫折してしまうんです」

多くのフィットネスジムは、アスリートや一部のトレーニング愛好家に向けた設備構成になっている。アスリートやトレーニング経験のある人ならば、設備があれば、自主的に延々とトレーニングに励むことができるが、多くの人は自分に合った方法がわからず、断念してしまうという。

「そういったトレーニングは往々にしてキツイので、その目的がはっきりしていないと乗り越えられません。たとえばボクサーなら『KO率を上げたいからパンチ力上げたい』など目的が明確なので耐えられるのですが、一般の方は、健康になるのが目的です。そんな人にハードルの高いトレーニングをやれと言われても、1回で投げ出してしまうわけです」

かつて枝光さんはこんな体験をした。約20年前、スポーツトレーナーとしてアスリートを担当していたとき、あるきっかけで、60代の外資系企業の社長のパーソナルトレーナーの依頼を受けたのだ。

「トレーニングを始めるとき、社長さんに『僕はマッチョになる気はにない。健康になって、長く仕事がしたいだけなんだ』と言われて戸惑いました。正直、今までそんな依頼を受けたことがなかったので。――では、健康で長く会社を続けるために、どんなトレーニングをしたらいいのだろう?とヒアリングをしていくと、『健康について、若い頃と比べて懸念がある』とおっしゃった。月の半分は、アメリカと日本を飛行機で行き来して、時差のせいで鬱っぽくなって、抗うつ剤を飲んでいた。さらに長時間座席に座り続けるために慢性の腰痛になり、それが仕事に支障を来たしていました。

そういった身体の状況を知ったので、通常のトレーニングと内容を変えて、まず交感神経の高ぶりを軽減して自律神経を整えるストレッチや揉みほぐしをしました。そして腰痛に対しては、筋肉の柔軟性を確保してあげたり、血流を上げたり、筋力のバランスを整えるトレーニングを指導したら、社長さんがとても喜んで、トレーニングが長く続いたんですよ。そのときに、『トレーニングはスポーツ選手だけのものじゃない』と気づきました。中高年や高齢者に向けたパーソナルトレーニングは、これからの高齢化社会に絶対に役立つと確信したんです」

ゴールドジムでアスリート向けにパーソナルトレーニングをしていた枝光さんは、一般の方が多く集まるコナミスポーツに拠点を移し、パーソナルトレーニングの営業を開始。……ところが、いくら営業しても人が集まらない。その頃(20年ほど前)は、『パーソナルトレーニングは高価で特別なもので、芸能人がやるもの』というイメージ。一般の人は、『私たちはジムに通えばいい。パーソナルトレーニングなんて必要ない』と関心を持たなかった。

 

自主的にトレーニングできる人は1割だけ

心身健康倶楽部代表の枝光さん

しかしある日、希望の光が差した。かつてコナミの会員だった方から連絡が来たのだ。元会員の人はこう言った。『私は自力ではジムのトレーニングを続けられないので、パーソナルトレーニングをお願いできませんか?』と。

「つまり、世の中には、一人で筋力トレーニングを続けられる『自主トレ組』と、挫折してしまう『できない組』の2つに分かれているんです。僕の調査では、9割の人が『できない』。半年、1年とトレーニングを続けられる方というのは、全体の中で1割しかいないんです。パーソナルトレーニングは、結果を出したいアスリート、そして自力では続けられない人に向いているわけです」

これに気づいた枝光さんは、ジムを退会した人のリストを集めて、中高年向けのパーソナルトレーニングの営業をかけた。すると爆発的な勢いで人が集まることに。その後、中高年専門の心身健康倶楽部を設立。今年で6年目になる。

「こうした経緯があるので、私の主催している心身健康倶楽部には、『自分で筋トレできるマッチョな人は、どうぞ来ないでください』とお伝えしています。中高年になると運動不足で筋力が衰え、生活習慣病の予備軍になり、いろんな不調が出て来ます。特に50代後半から60代になると、さらに調子が悪くなってきて、一般的なジムのトレーニングも続かなくなってしまい、整体や整骨院に行くようになる。しかしそういったものは一時的には体がラクになっても、しばらくすればまたくたびれてきます。

これを根本から改善するには、筋肉のアンバランスを整えること。たとえば、右ききの方であれば、右手ばかりで仕事をしているので、右と左の筋肉の量が違ってきたりします。また、ふだんあまり歩かない方は足腰が弱ってくるので、前後の筋肉バランスが崩れてきて、姿勢が悪くなったりする。こうした筋肉のアンバランスを整えない限りは、整体や接骨院にいっても再発します。ベンチプレスで100キロを上げるよりも、全身の筋肉をバランスよく、上手に使えるほうが、日常生活に活きてきます」

そして、トレーニングを継続させるためには、メンタルや栄養摂取などのケアも必要だ。

「健康は、『心・体・環境』という3つのサイクルでつながっていて、フィジカルトレーニングだけでもダメだし、メンタルケアだけでも、栄養や食事、環境を整えるだけでもダメなんです。このトライアングルがバランスよく整っていることが重要。これを整えれば、生活習慣病はほぼ良くります。

バランスのとれた筋肉の状態になってこそ栄養摂取も身になるので、『こういうトレーニングをして、このタイミングで食事をすると栄養の吸収率が上がる』という指導をします。逆に、栄養を吸収できる体になってないと、せっかくの栄養も垂れ流しになります。

また、そういう状態になるためにはメンタルも大切です。筋トレ、コーチング、栄養など、全体的なケアを行なっていくことが重要です」

連載第2回からは、心身健康倶楽部オリジナルの中高年のトレーニングの基本について解説していく。

取材・文/三島衣子


枝光聖人(えだみつ・まさと)
心身健康倶楽部代表取締役。パーソナルトレーナージャパン株式会社。人間総合科学大学人間科学学士。心身健康科学修士。厚生労働省認定ヘルスケアトレーナー等。ゴールドジムでアスリート向けのスポーツトレーナー等を経験した後、中高年へのトレーニング指導へと転向、「心身健康倶楽部」を設立。以後15年に渡る経験トレーニング指導を持つ。東京に四谷店、新宿御苑店、あざみ野店、イオン西新井店、神奈川に横浜元町店、大阪に高槻店の6店舗がある。著書に『毎日の不便を「喜び」に変える筋力アップの方法 老筋トレ』(法研)、『はいはいエクササイズ』(ベストセラーズ)等。
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