バランス力を鍛えるのも大切【鹿児島ユナイテッドFC・増成暁彦氏が語る少年期の体づくり⑤】




昨今、体づくりへの関心が高まる一方で、子供の体力・運動能力の低下が嘆かれている。アスリートを目指す、目指さないに関わらず、子供たちはどんな運動をすれば健康的でケガのない体をつくることができるのか。Jリーグ・鹿児島ユナイテッドFCのアカデミーでフィジカル・メディカルのトレーナーを務める増成暁彦氏に話を聞くこのシリーズ。最終回は、増成氏が注目している“バランス力”について。

――ここまで5回にわたり、小学生年代の体づくりに必要なことを聞かせていただき、ありがとうございました。

増成 ただ僕としては、もう一つ大切にしたいことがありまして……それは“バランス力”をです。これも子どもにとってはとても大事なんです。

――詳しく教えてください。

増成 人がバランスをとるときに使うものは、目(視覚)、耳(三半規管)、そして体性感覚(足の皮膚の感覚)の3つがあります。この3つのどれかを遮断することでバランスを取りづらくして、負荷をかけていくことでトレーニングになります。とてもシンプルですけど、片足立ちをすることでまずバランスを保ちにくくなりますよね。それだけでも十分なバランスのトレーニングですが、負荷を上げるなら、目を瞑って視覚を奪う。さらに、三半規管を乱すために上を向いてみる。加えて、体性感覚を狂わせるために、地面に立つのではなくクッションなどの上に立ってみる。こうやって3つの感覚を狂わせることで負荷を上げながら、バランス力を鍛えることができます。

――子供が家の中でも簡単にできますね。

増成 はい。学校の部活動などであればバランスディスクのようなもの常備している学校なども多いと思いますが、クッションならどのご家庭にもあるもので、簡単にできるので良いと思います。

――しかも、一人でできるというメリットもあります。

増成 そうですね。あと、僕自身はいろいろなスポーツの体の動きを見るのがすきなのですが、やはりサッカーのチームのトレーナーなので、サッカーに必要な「認知・判断・実行」というのも大切にしたいと思っています。残念ながら一人で行うトレーニングには、判断の部分が欠けているので。

――もう少し詳しく教えてください。

増成 協調性のトレーニングのところでダンスのお話をしましたが、誰かに手伝ってもらい、例えば右手を上げたら動き方を変えるとか。ペットボトルを置いたトレーニングで、前にいる人が触ったのと同じものを触るとか。ある行動をしながら、状況を認知して、それに応じた判断を行なう練習をすることで、サッカーに活きてくると思います。

――何かをしながら、他の何かをするということですね。

増成 そうです。先ほどのバランスのトレーニングにプラスアルファするなら、片足でバランスを取っているときに、計算をさせたり、キャッチボールをさせたり。偶数だったら右手、奇数だったら左手でキャッチするとか。バランスをとる脳の部分と、計算する脳の部分がありますが、計算をすることに脳重きを置くので、バランスを取るのが難しくなる。それがサッカーの状況と非常に似ているんですね。そういう練習をぜひ子供の頃にやっておいてほうがいいと思います。何かをしながら何かをするっていうのを子供のときにやっておくと、運動のなかでの判断力が上がってきます。運動を自動的にやってくれるプログラムをつくられていくんです。

――自動的、というのは無意識にできるようになることですか?

増成 車の運転なんかもそうだと思います。最初は運転することにすごく集中していると思いますが、ある程度慣れてくると、何か他のことを考えながらでもできるようになるじゃないですか。運転がうまくなるってそういうことだと思います。いろんなことを同時にできるようになってくる。運動というものに注意を向けなくてもよくなってくるわけです。

――なるほど。ここまで少年期の体づくりに参考になるお話をいろいろ伺わせていただきましたが、増成さん自身の今後の展望を聞かせていただけますか。

増成 いろいろなトレーニングなどをお話しましたが、僕として考えていることは非常にシンプルで、日本のサッカー界の発展に貢献したいんです。その手段をどうするかと考えた中で、やっぱりケガしないことが一番大切ですよね。どうやって日本のサッカーの傷害を少なくしようかと考えています。

――研究されてきたことを活かして、日本のサッカーの発展に貢献したいと。

増成 「傷害の予防」をテーマに研究していますが、それを聞くと「マイナスにいかないようにする」というイメージがあると思います。でも実際はそれが動きのパフォーマンスアップにつながる、という点も伝えていきたいですね。かといって、あくまでベースの部分の話しなので、これがあればパフォーマンスがすごく高いというわけでもない。あくまで、これがあった上でさまざまなトレーニングをすることでさらに良くなるよ、という面もですね。

(完)

取材・文・撮影/木村雄大


増成暁彦(ますなり・あきひこ)
1983年、神奈川県出身。鹿児島ユナイテッドFCアカデミーチーフトレーナー。筑波大学で、主に傷害予防トレーニングについて指導・研究を行い、2018年より現職。選手一人ひとりの心身と向き合い、体づくり、体の使い方も含めてきめ細かい指導を行なっている。

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オフィシャルホームページ→http://www.kufc.co.jp/
アカデミー情報→http://www.kufc.co.jp/academy/about/
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