8/31(土)・9/1(日)の2日間にわたり開催された2019年オールジャパン選手権。大会2日目に行なわれたメンズフィジーク・23才未満級(ジュニア)172cm超級で頂点に立ったのは穴見一佐だ。優勝の裏には、かけがえのないライバルとの約束があった。
「僕らのクラスには翁長汰志郎選手や鈴木幹二選手、さらに望月あもん・しもん兄弟など注目が集まる選手がたくさん出場していました。でも、流れをそっちには持っていかせない、絶対に僕たちで流れを作ろうと話していました」
彼のライバルとは、同い年の辻大成。穴見は福岡、辻は東京と遠く離れているが、大会をきっかけに知り合い、普段はSNSなどで頻繁にやり取りし、切磋琢磨していると言う。辻も「あいつに勝ってジュニアに頂点に立ちたい」と以前に話している、まさに盟友同士だ。そんな2人は今年2月にトレーニングを共にした際、このオールジャパンの舞台に立つことを約束しあった。
「40才未満の一般カテゴリーだと、176cmで階級が分かれてしまいます。でもジュニアカテゴリーであれば172cm超級で同じステージに立てる。『半年後、あの舞台のセンターで一緒に並ぼう』、そう誓い合いました」
迎えた大会初日。それぞれ40歳未満級の一般カテゴリーに出場し、辻は176cm以下級で5位入賞と奮闘。しかし176cm超級に出場した穴見は、まさかのピックアップ審査落ち。47名→12名という狭き門であるとはいえ、本人も「少なくとも12人には残れると思っていたので……」と話しているように、周囲からの下馬評も高い彼の落選には多くの驚きの声が上がった。
「後に講評を伺ったら、ポージングに少し問題があったとのことでした。筋量などは問題はなく、ポージングに関しても意識すれば修正できるところだったので、翌日のジュニアではうまく調整して臨めたと思います。改めて、ポージングの重要性を痛感した大会でしたね」
翌日に行なわれたジュニアカテゴリーのピックアップ審査を通過し、上位12名に残った2人。ここから決勝に残る6名が選ばれるわけだが、決勝では各選手1人でのLウォークと登録番号順のラインナップになるため、33番の辻と43番の穴見が並ぶのは自力では不可能。この予選での比較審査が、自力で手繰り寄せることができるチャンスとなる。とりわけ、ファーストコール(12人の中から最初の比較審査対象として呼ばれること)は、決勝へ進む可能性が高い上位選手であり、ここに立つことを目指してきた。
最初に呼ばれたのが穴見、そして次に呼ばれたのが辻だった。
半年前に約束した、念願の舞台。見事に有言実行を果たした。ステージのセンターへ呼ばれた2人はお互い目を合わせると「うん」と頷き合い、グータッチ。規定4ポーズでの審査が何度か行なわれたのち、後方へ下がるよう指示されると、別れ際に再びグータッチをかわした。
「演出……というわけではないですけど、とにかく会場を湧かせたい。そういう思いがあって、もし並んだらやろうかという話を舞台袖からしていました。まぁ大成は前日に入賞していたし間違いなく呼ばれると思っていましたけど、僕は落ちていたので、呼ばれないんじゃないかと不安は正直ありましたが(笑)」
予選を終え、決勝を終え、いよいよ表彰式へ。6位:並木邑樹、5位:望月あもん、4位:翁長汰志郎、3位:鈴木幹二……と順番に名前が呼ばれていき、願いの通り2人が残った。おもむろに彼らは胸の前でVの字をつくるポーズをみせ、最後のコールを待つ(穴見の師である小泉憲治譲りのポーズとのことだ)。
……先に名前を呼ばれたのは、辻大成だった。この瞬間、穴見一佐の優勝が決定。歓喜の表情で表彰状とメダルを受け取り、記念撮影に応じる穴見の後ろで、辻は頭を上げることができなかった。
「大会の間はずっと一緒にいて、一緒にメシを食って、一緒に風呂に入って。終わった直後もあいつはずっと泣いてて声を掛けづらかったんですけど、どっちが勝っても恨みっこなし、どっちが勝っても納得という思いです。逆の立場だったら僕もああなっていたかもしれませんが、終わったんだしうまいもんでも食って帰ろう、そう話しました」
大会が終わればノーサイド。最高にしびれる戦いをステージ上で披露した2人は、くいだおれの街・大阪でさぞかし“うまいもん”を食べたのであろう。
「……いろいろ悩んだんですけどそんな高価なものではなく、『いつも食いたいけど食えないものにしよう』ってことで、結局マックです。で、タピオカを飲んで、たこ焼きを(笑)」
熱視線を浴びながら会場を大いに盛り上げた2人は、学生らしい素顔に戻り、大阪に別れを告げて再び福岡と東京へと帰っていった。そんな清々しくもあり熱き友情で結ばれた2人の姿は、周囲を明るくする「ハッピーオーラ」を放っていたに違いない。
ジュニアカテゴリーで火花を散らした彼らの次の目標は、一般カテゴリーのオーバーオールで再び共にステージに立つこと。決して遠くない未来に、その時はやってくるはずだ。
文・写真/木村雄大