トレーニングは精神面にも好影響を及ぼします【髙田一也のマッスルラウンジ 第59回】薩田有紀代さん⑥




大好評「マッスルラウンジ」。今回は千代田区飯田橋と港区田町に店舗を展開する、完全個別指導型パーソナルトレーニングジムBiP(ビップ)の代表取締役であり、太極拳の元世界チャンピオンという異色の肩書を持つ薩田有紀代さんが登場。対談は今回が最終回です。ふたりが理想とするパーソナルトレーニングジムの在り方とは?

「かかりつけのお医者さんのようなジムもいいかなと」(薩田)
「トレーニングで心の病を改善された方がいらっしゃいます」(髙田)

髙田:どうしてもこの仕事で生きていきたいと思っていたので。最初は会社員をやりながらだったんですけどね。

薩田:そうなんですか。

髙田:当時はパーソナルトレーナーだけで生計を立てることが難しい時代だったので、会社がある日は昼休みと夜、あとは休みの日を全部指導にあてていた感じでした。

薩田:そういう人生におけるターニングポイントみたいな時期ってありますよね。

髙田:そうですね。自分の場合はトレーニングを始めた時、トレーナーになった時、初めて自分でジムをつくった時ですかね。そもそも最初は業界でも、パーソナルトレーニングジムなんて成り立つわけがないと思われていたんですよ。僕が始めた時なんて、物件も貸してくれなかったですし。「ウエイトトレーニング」って言った瞬間に大家さんにダメって言われるんです。加圧とかだったらいいけど、ウエイトトレーニングの機材を入れるのはダメだと。30件くらい見に行ったのかな、やっと見つけたのが白金台だったんです。恵比寿から歩いて20分、白金台からも15分以上かかる、本当にわかりにくい場所で始めました。始めてから最初の半年はけっこう大変でしたね。

薩田:1ブースですか?

髙田:いえ、地下と1階があるメゾメットみたいな物件でした。スペース的に1時間でふたりしか見られなかったんです。オープンして半年で予約が取れないくらい忙しくなってしまったので、1時間で4人くらい見られる今の場所(新宿御苑)に移りました。白金台には1年8ヵ月くらいいましたね。

薩田:同時にふたり見られるということは、もうひとりトレーナーさんがいたんですね。

髙田:そうですね。何人か登録トレーナーが来ていました。当時はそういうジムがなかったので、登録トレーナーという方法しかなかったんですよ。もしかしたら自分と気持ちが通じるトレーナーがいるかもしれないと思って募集したら、たくさん応募してきてくれて。

薩田:同志がいたと。いい話ですね。

髙田:ただ、いい出会いもあれば、それなりにキツいなと思う出来事もありました。

薩田:それを乗り越えたことが、トレーナーや経営者としての成長や発展につながったんでしょうね。

髙田:まあ、自分が経験したことなんてたいしたものではないですけどね。でも、自分ですらこんな経験をしているんだから、うちのジムにいらっしゃっているクライアントさんなんてもっとすごい経験をされているんだろうなと思うんです。そうすると、一つひとつのことにもすごく感謝できたり、尊敬できたり。ちょっと見方が違ってきますよね。全然綺麗ごとを言っているつもりはないんですけど、本心でそう思います。

薩田:実際に経験されないと、本当の意味でお客様の話にも共感できないですもんね。

髙田:そうですね。それはすごくよかったと思います。このくらいの年頃になってくると、本当に重い話が多いんですよね、人の生き死にだったり。これは体が弱かった若い頃の経験が大きいと思うんですけど、いろいろな問題を抱えていらっしゃる方々に、健康がどれだけ大切かを示せることはトレーナーとしてすごくよかったかなと思います。

薩田:奥が深いですね。

髙田:だから、自分の場合はファッション感覚のトレーニング指導とは違うんですよね。そういうところから入るのはアリだと思いますけど、ずっとそれだけでは人が何かを続ける動機としてはちょっと不十分かなと。

薩田:そうですね。入口はファッショナブルでもいいけど……。

髙田:あ、全然違ったんだということを教えてくれるトレーナーが必要かなと思います。薩田さんは今後、ご自身のジムをどのようにしていきたいですか。

薩田:トレーニングをしに来ているんだけど、元気になりに来ていると言いますか。あのジムのあのトレーナーに会いにいきたいな、BiPに行くと元気になれるよねという存在にしたいですね。今もパーソナルの50分間、お話だけして帰るお客様もいらっしゃるんですよ。かかりつけのお医者さんのようなジムもいいかなと思います。

髙田:トレーニングとか健康管理って、薩田さんがおっしゃるように精神面をすごく変えるんですよね。自分のクライアントさんの中には、トレーニングで心の病を改善された方がいらっしゃいます。なぜ治るのかと言ったら、栄養の摂り方とかで病気を引き起こしている部分もあるので、そういった部分を適切に指導する形です。ただ大前提として、絶対に自分が手本になっていなければいけないんですよね。指導者がやり切っているような人じゃないと、そこには何も生まれないと思っています。もちろん知識や勉強も大切ですけど、この人はすごいな、じゃあ自分もマネをしたらこうなれるかなというものを見せてあげることも大切だと思います。そういったものが全部重なって、合わさって、やっとひとつのパーソナル指導になると思うんですよ。だから、気持ちを上げるというのはすごくいい考えだと思いますよ。

薩田:今回は髙田さんにいろいろなお話をうかがって、やれることはまだたくさんあるな、この業界はまだまだ希望があるなと思いました。今日は本当に勉強になりました。ありがとうございます。

髙田:とんでもないです。こちらこそありがとうございました。これからもお互いがんばっていきましょう。

取材・構成・撮影/編集部

髙田一也(たかだ・かずや)
1970年、東京都出身。新宿御苑のパーソナルトレーニングジム「TREGIS(トレジス)」代表。華奢な体を改善するため、1995年よりウエイトトレーニングを開始。2003年からはパーソナルトレーナーとしての活動をスタートさせ、同時にボディビル大会にも出場。3度の優勝を果たす。09年以降はパーソナルトレーナーとしての活動に専念し、11年に「TREGIS」を設立。自らのカラダを磨き上げてきた経験とノウハウを活かし、これまでに多数のタレントやモデル、ダンサー、医師、薬剤師、格闘家、エアロインストラクター、会社経営者など1000名超を指導。その確かな指導法は雑誌やテレビなどのメディアにも取り上げられる。
TREGIS 公式HP

薩田有紀代(さつた・ゆきよ)
株式会社BiP代表取締役社長。大日本印刷株式会社、株式会社クロス・マーケティングを経て2018/4~BiPに参画。会社員時代から、太極拳の武術的動きの真髄を用いた身体の根本的な動かし方と、陰陽五行論に基づく考え方をお伝える活動を行う。印刷会社における研究所や工場の生産性向上・人材育成・教育の経験、消費者調査やマーケティング理論に基づき、独自の視点でBiPの経営を行っている。「人はなぜ、カラダを変えたいのか?」。人間心理に基づく、BiPオリジナルトレーニングメソッドを提供。
●太極拳実績
・2013年、太極拳世界大会優勝
(楊家老架式太極拳108式:白級個人戦・団体戦)
・2015年、太極拳世界大会。
黄級個人戦2位、藍級団体戦3位
・2017年、太極拳世界大会優勝
(楊家老架式太極拳108式:黄級個人戦)
BiP公式HP