筋トレの「つらい」を「快楽」へ【谷本道哉先生インタビュー】

筋トレ愛好家を急増させているとも言われる『みんなで筋肉体操』(NHK)。そのDVD付きBOOKも発売となり、さらに話題沸騰中です。そこで今回は同番組で筋肉指導をしている谷本道哉先生にお話を聞きました。

筋トレは時間よりも質が大事


――『みんなで筋肉体操』はなぜ『筋トレ』ではなく『筋肉体操』なのでしょうか。

「同じNHKの『みんなの体操』の筋トレ版をつくりたいという意図が制作班にあったようです。詳細な経緯はわかりませんが『みんなの筋肉体操』だと、『みんなの体操』と混同しかねないなどあり、『みんなで筋肉体操』におちついたみたいです。『みんなの筋肉体操』って間違えて言う人が多いですけどね(笑)。『みんなの体操』のオマージュなので、『筋トレ』ではなく、『筋肉体操』ということですね」

――『みんなで筋肉体操』は5分間という短い時間に筋トレを凝縮した番組となっていますが、5分間のエクササイズで実際にどのくらいの効果があるのでしょうか。

「やってみたらわかりますが、5分とはいえ腕も足も腹筋もパンパンになりますよ。5分のうちの実際にやっている時間は2分、インターバルを入れて3分ですが、3分でも十分筋肉は追い込めますよ。筋トレは時間よりも質が大事なんです。それを示す意味でも5分間で番組をつくったということに意義があると思います」

――谷本先生は普段どのくらいトレーニングをするのですか。

「週に4~5回で1回20分しかやりません。そのかわり質をめいっぱい求めます」

――現代はインターネットで筋トレの知識というのは手に入りやすいと思うのですが、知識はあってもなかなか習慣化するのは難しい気がするのですが、何か秘訣はありますか。

「そもそもインターネット上にある知識が有効と言えるかがかがまず疑問です。たとえばプランクなどの体幹トレーニングなどでは筋肉はさほどつきませんから」

――え? そうなんですか!

「プランクはもともとが『体幹を固定する練習』であって筋トレではありませんからね。筋トレってバーベルや体を上げ下げしますよね。これが重要です。筋トレをするとパンプアップと言って、筋肉に乳酸が溜まって水膨れするんですけど、これはエネルギー消費の大きい『上げる動作』によって起こります。パンプアップが筋肥大の刺激となることは明確に示されています。また、下ろすことも筋肉をつける重要な刺激になります。下ろす動作というのはバーベルが落下するエネルギーを筋肉で受け止めているんです。たとえば5階から階段を下に降りてくるというのは、5階から飛び降りて床に叩きつけられるだけの衝撃を、一歩一歩筋肉で受け止めているということなんです」

――なるほど!

「下ろすから筋肉痛になるんです。これも筋肥大の有効なファクターになる。主にはこの二つが筋肉を大きくさせる刺激となるので、筋トレは『上げて下げる』ことが大事なんです。しかし、体幹トレーニングのプランクはその要素がどっちもゼロですよね」

――ゼロ!?

「上げもしないし下げもしないので、筋肥大の効果は低くなります。ずーっと力を入れていないといけないからしんどいんですけどね。体幹をガチっと固めることを『意識づける』意義はあるかもしれないので、意味がないとはいいません。ただ、それなら10秒とか15秒とかで良いかなと思います。1分とか2分とかするというのは、しごきですね(苦笑)。筋肉はたいしてつきませんし」

――つらいだけで効果がないのは嫌ですね。

「あと実際のスポーツでは体幹部分ってめちゃくちゃ動きます。投げて打ってでは大きく捻じるし、ジャンプでは曲げてから反らします。体幹トレは固める練習がもともとの狙いですが、そもそも固めることに意義があるかさえも疑問なんです。また、『筋トレ』として効果があると思ってやっている人もたくさんいると思います。腹筋を割るためにプランクをするとかいう人も多いですね。でもクランチで上げ下げしたほうが、はるかに効果があります。腕を太くしたくてバーベルもって1分間じっと耐えている人はいませんよね? 体幹トレは一例ですが、インターネット情報は知識として質が高いとは言えないのが現状ですね」

――筋トレ初心者のみなさんが一番陥りやすいのは「きつい」とか「めんどくさい」とかの理由で続かなくなってしまうことだと思うのですが、継続する秘訣はありますか。

「そもそも『筋トレはつらいもの』という考え方をやめて欲しい。効率よくやれば、短い時間でも追い込み切ることができます。『筋肉体操』は一つの種目が全部1分以内ですけど、1分以内で十分に強い刺激を与えられるんです。そして、筋肉を追い込み切ると発痛物質がでてくるのですが、それを乗り越えてがんばると快楽になってくるんですよね」

――筋肉痛が快楽ですか!

「ランナーズハイみたいな状態が筋トレでも起こると言えます。発痛物質の信号をノルアドレナリンなどの脳内麻薬で乗り越えるわけです。アーノルド・シュワルツェネッガーの言っていた『パンプアップはSEXよりも気持ちいい』という言葉のようになるんです。パンプアップしている時は筋肉が水膨れしているので、見た目としてもすごくいい体になっているんですよ。鏡で自分の腕を見ると、腕がカッコよくなっています。これも気持ちよさを助長しますよね。一時的な水膨れなんで、もちろんすぐに戻りますけど、その姿に満足感があるんです。ダラダラと長い時間やったらそれはつらいですけど、短時間でその快楽を得られるような刺激を与えれば、筋トレはつらいものではなくて、楽しんでやれるものに変わってくるはずです。前向きな気持ちにもなれるでしょう」

――前向きと言えば、番組内では「あと5秒しかできません」とかキャッチーな言葉がいろいろ出てくるのですが、普通は「あと5秒もやるのか!」と思ってしまいがちだと思うんですが。

「あと5秒もやらなければいけないところを『あと5秒しかできません』ならば、『じゃあやり切ろう!』って思うでしょ?」

 

『みんなで筋肉体操』は科学番組

――同じ状況でも言い方ひとつで気持ちがポジティブに変わりますね。

「これは僕自身が筋トレしているときに思うことからつくっている言葉なんです。『できるだけ強い刺激を与えたい。それを楽しくやりたい。じゃあどういうふうに考えて取り組んだらいいのかな』と自分自身を叱咤する時に思っていることなんですよね。やらせるための言葉ではなくて、一緒に頑張るための言葉だから、みなさんにも響いてくれているのかもしれません」

――すごくリズミカルに言葉が出てきますよね。

「あれは60BPM(1分間に60回)でメトロノームをかけて、1秒に一言ずつリズムに合わせて当て込んでいます。動きも60BPMで動くので、言葉と動きがシンクロして調子が合うんです。『きつくても/辛くない/きつくても/楽しい/あと5秒しか/できません/やり切る/出し切る/全部出す』という感じでテンポよく後押ししています」

――エクササイズに合わせて先生がリズミカルに声をかけていたんですね。

「冒頭の挨拶と終わりの挨拶は番組スタッフさんと一緒に考えていますが、運動中のセリフは一字一句メトロノームに合わせながら僕が考えています。曲を作るみたいで楽しいですよ、ってリズムネタのお笑い芸人みたいですかね(笑)」

――『筋肉体操』を毎日続けたらどのくらいの効果がでるでしょうか?

「人それぞれ素質もありますが、組み合わせて10分くらいみっちり行なえば、僕くらいの体なら近づけると思います。自分が実践する立場にたって最も効果的な方法を考えてつくっていますので。僕は20分やるので、ちょっとこれよりも多いですけど」

――『筋肉体操』は基本的に自重トレーニングばかりですが、自重にこだわる理由は何ですか。

「誰でもすぐにできるということですね。バーベルにすると『みんなで』にはならないんですよ。忙しいからできない人でも、自重トレーニングは1秒後にどこでもできます。今すぐスクワットもできるし、今すぐ腕立てもできる。そういう意味で自重にこだわっています。そして『自重は効果が低いし初級者向けなんでしょ?』というのを『工夫すればそんなことはありませんよ』ということに挑戦しているのが『筋肉体操』なんです。ゴリゴリマッチョでも悲鳴を上げるくらい追い込めますよ」

――今まで何もトレーニングをやったことがない人はいったい何から始めたらいいでしょうか。

「全部やったほうがいいんですけど、自分がやりたい種目からやればいいと思います。腹筋がやりたいんだったら腹筋からやってください。腕立てがやりたいんだったら腕立てから。お尻を上げたいならスクワットをやってください。とっかかりとしては『やりたいことをやる』のが一番いいです。『上半身を作りたい!』と思っている人に『はい基本はスクワットですからスクワットから始めましょう』なんて、そんな楽しくない筋トレはないですよ(笑)」

――筋トレは楽しまなくてはいけない。

「そうですね。腕立てをする前は『腕立て伏せができるぞ!』って考えてください。『もっと高く上げなきゃ』じゃなくて『もっと高く上げてもいい!』です。『もっと追い込まなくちゃ』じゃなくて『もっと追い込んでもいい!』。自分が鍛えたい筋肉をもっと苛め抜いてもいいんです。そういうことをこのDVDがひたすらパワーフレーズで言い続けてくれますよ(笑)」

――環境映像のようにDVDを流しておけば、筋トレをしたくて仕方なくなりそうですね。

「リズムで流れているので、気づいたら筋トレをしているようになるといいですね。つまり気づかなければいつのまにか筋トレをしちゃっているという。『あれ? 全然筋トレやってないのにこんなに体が変わってどうしたのかな?』って(笑)」

――初心者にもわかりやすいシンプルなメニューばかりでいいですね。

「メニューはシンプルですが普通にあるトレーニングは一つもないですよ。何かしらの工夫がしてあります。例えば腕立て伏せで胸をつけるまで下ろすと書いた教本はこれまでなかったと思います。『顎がつくまで』とか、『鼻がつくまで』とか「甘いこと」を書いてありますが、ベンチプレスでバーを胸まで下ろさない人なんていないですからね。大きく動作するほど筋肉にかかる力学的力も生理学的負荷も大きくなるんです。また、手幅の取り方などのフォームも、力学的、生理学、解剖学的視点から考えて決めています。ただ楽しく煽っているだけではなく、科学でメニューを決めているんです。だから『みんなで筋肉体操』は科学番組だと思って僕はメニューを作っています」

みんなで筋肉体操
著/NHK「みんなで筋肉体操」制作班
著/谷本 道哉

発売年月 2019年9月
ISBN 978-4-591-16395-5
判型 A5判
定価 1,870円(本体1,700円)


谷本道哉(たにもと・みちや)
1972年、静岡県出身。近畿大学生物理工学部人間工学科講師。国立健康・栄養研究所客員研究員(兼任)。大阪大学工学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は身体運動科学、筋生理学。NHK『みんなで筋肉体操』の筋肉指導を担当して話題となる。ポプラ社から『みんなで筋肉体操』DVD付きブックが発売された。

取材・文/神田勲