「使える筋肉」の作り方を広める伝道師 ④ホグレルマシンで「現役復帰」




このワークショップで試したホグレルマシンは計5種類。前回の3つに続いて、今回はとくに独立プロ野球リーグのエース投手であった相原さんの専門である野球のピッチングにとくに関係のある2つを紹介する。

ピッチング動作に肩甲骨の柔軟性が重要であることはすでに述べた。とはいえ、ではどうやれば肩甲骨の柔軟性を手に入れることができるのかと問われても、すぐに答えることは難しい。それを一発で解決するマシンがこれだ(写真)。

グリップが肘のすぐ下にくるくらいに調節し、肘は体より少し後ろにもっていく。そしてグリップを握る。多くの人はこの際に窮屈さを感じるが、それは肩甲骨周りが固い証拠だ。力を入れると、グリップは簡単に下がる。主眼は筋力強化ではないので、重りは5キロからせいぜい10キロ。トレーニング好きの人にとっては物足りないくらいだろう。そして、重りをこれも下げることが目的ではなく、下げた後に力を緩めることで、その重さにより肘を横方向に上げることが主眼である。この時、肩甲骨を広げることを意識することがコツだ。この動きを20回ほど繰り返すことによって肩甲骨周りが緩まっていくことを実感できる。

そして野球をやっている人にぴったりなマシンがこちら。

これはかつて独立リーグのエースだった相原さん発案によるマシンなのだ。名付けて「マルチスロー」。よくプロ野球選手がゲーム前に両腕を90度に曲げながら肩の高さに肘をもってきて広げ、その肘を軸に手を上下に回転させるストレッチを行っているが、このマシンはそれを正しい型で行うためのものだ。もちろんウエイトは軽く、投球に必要な細かい筋肉や腱を伸ばすことにエクササイズの主眼は置かれる。これも20回3セットを続けることで効果が出てくるという。

30分ほどこれらのマシンの体験をした後、締めの話が行われ、ワークショップは終了。その後もしばらくは参加者が、今一度マシンを体感し、スタッフに様々なことを尋ねていた。

相原さんは言う。

「ホグレルマシンは使い方が重要ですから。やはりこういう機会にしっかり理解していただきたいですね」

都内や大阪にあるホグレル・スペースはジムとしてだけではなく、ショールームとしても機能しているという。使い方がその効果を左右するマシンだけに、買ってもらって終わりではなく、顧客との理解が重要だというのが、ホグレル社の方針だ。

「やはりマシンのユーザーには、アフターケアが大事ですから。現在野球チームでウチのマシンを使っていただいているのは、学校の野球部中心なんです。強豪の私学以外はトレーナーを雇うことなんてなかなかできませんから。だからホグレルマシンを買っていただいた後、使い方を指導することで、ケガの予防を含めトレーナー的な役割を果たせます」

相原さんは元アスリートとして、その役も買って出ている。着実に野球界に広がっているホグレルマシンだが、プロレベルではまだまだとのこと。今後は、トップレベルにもこのマシンを普及させていくことが目標だ。

そういうわけで、相原さんは現在年中無休状態だ。日曜開催の大阪での今回のワークショップの前後も、前日は関東での野球教室、翌日は、ホグレルユーザーのプロ野球選手の調整ぶりを見るためキャンプ地の宮崎への出張だ。

「プロの選手の方は、うちのマシンを使っていただいていた学校の出身者で、ちょっと顔を見に行きたいなって感じです」

「働き方改革」が叫ばれている中、いいのかなとも思うが、この日のワークショップのため来阪していた社長の向川是吉氏は笑う。

「彼が出張業務を次々と入れてくるんです。もはや私も全部把握していない」

全国を飛び回るとなると、出張経費もかなり掛かるのではと思うが、野球関係の業務については、会社も相原さんにすべて任せているという。

「いくら出張経費使っても、それ以上をもって帰ってきますから」と社長。

社長の向川氏も元アスリート。高校まではサッカー、大学では当時流行りだしたスノーボードに転向し、全国トップレベルにまで上り詰めたという。その中で、ただ単に強い筋肉を求めるだけのトレーニングに疑問を感じ、その鍛えた筋肉を出来るだけ高いパーセンテージでパフォーマンスに生かせるようにと考え出したのが、ホグレル社の看板商品、ホグレルマシンというわけだ。同じ元アスリートとして、向川社長の相原さんへの信頼は厚い。

多忙を極める相原さんだが、四十路を前にして「現役復帰」を果たしている。ホグレル社は昨年、マシンの成果を示すべく、野球部を立ち上げたのだが、相原さんはこの監督を務めることになった。投手不足の中、選手登録も行い、時にマウンドにも上がるという。さすがに往時のスピードはないものの、独立リーグ最多勝の投球術は伊達ではなく、若い投手のよき見本となっている。これには向川社長も顔をほころばせる。

「ある大学との試合を観にいったんですが、ピッチャー陣があまりに打ち込まれたんで、予定のなかった相原が急遽登板したんです。さすがでしたね。ピッチャーはスピードじゃなくてコントロールだということがよくわかりました」

相原さんは、独立リーグ時代にホグレルマシンに出会ってから、重いウエイトを使ったトレーニングは一切していないという。このマシンで野球界に革命を起こすべく相原さんは日本中を飛び回っている。

取材・文/阿佐智