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すべてのアスリートにリスペクトを【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第109回】

VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? まもなく4月、春ですね。何があっても季節はめぐります。

さて、新型コロナウイルスの話題ばかりで恐縮ですが、さすがに触れないわけにはいかないでしょう。東京2020オリンピック・パラリンピックの1年程度の延期が決まりました。先週のコラムで「決定してほしい」と書いた直後に延期が決定。不透明なまま結論を先延ばしにするよりも、良いことだと前向きに考えます。

2013年からオリンピアン、パラリンリアンの取材を定期的に行なうようになり、競技を問わず本当にたくさんのアスリートを取材してきました。その中には、すでに東京2020大会への出場が内定していた選手も多数います(順不同で紹介)。

羽根田卓也選手(カヌー)、野口啓代選手、楢崎智亜選手(以上、スポーツクライミング)、乙黒拓斗選手(レスリング)、植草歩選手、清水希容選手(以上、空手)、阿部詩選手、芳田司選手(以上、柔道)、吉田愛&吉岡美帆ペア(セーリング)、森ひかる選手(トランポリン)、水谷隼選手、張本智和選手、伊藤美誠選手、平野美宇選手(以上、卓球)、鈴木雄介選手(競歩)、国枝慎吾選手、上地結衣選手(車いすテニス)、道下美里選手(ブラインドマラソン)…。

他にも登録メンバーが未発表の団体競技の選手や、内定はまだでありながらも金メダル有力候補と呼ばれる桃田賢斗選手(バドミントン)、阿部一二三選手(柔道)など、この先、決まってくるであろうはずだった選手も含めたら、かなりの数になります。同時に夢破れた選手たちも数多く取材してきました。競技によっても環境が異なり、取材した時期もバラバラではありますが、選手たちがどれだけこの東京2020大会にかけていたか、その思いを聞いてきただけに、かける言葉が見つからないというのが本音です。

スポーツクライミングの野口啓代選手は、東京2020大会での引退を公言していました。2016年に同種目が、東京2020大会で正式種目として採用されることが決まったとき、彼女は27歳。年齢的にもパフォーマンスを維持・向上していくイメージができず、当初は現実的な目標として考えられなかったと言います。しかし、「せっかく東京でオリンピックが開催されるのだからそこまで頑張ってみよう」と4年後を見据え、すべての時間とエネルギーを競技に注いできました。

スポーツクライミングには、スピード、ボルダリング、リードと3種目があり、オリンピックでは複合種目としてそれらをすべて行ない、合計得点で順位を競います。野口選手は元々、ボルダリングやリードの選手であり、性質がまったく違うスピードの経験はありませんでした。それでもオリンピックで勝つためにと、新たなことにもトライしてきました(もちろん他の選手もそれは同様です)。

インタビューをしたのは昨年の10月で、「毎月毎月、あと何カ月とカウントダウンしている感じです」と語っていて、一つひとつ課題を克服しながら2020年7月を待っていました。野口選手に限らず、選手たちは目標があるから厳しい練習にも耐えることができ、日々自分を追い込むことができるのです。「1年後になっても目標はあるじゃないか」と思う人もいるでしょう。でも考えてみてください。そんなに簡単なことではないのです。

誰にでも経験があることに置き換えてみましょう。高校なり大学なりの受験に向けて、半年、1年と遊ぶことを我慢して一生懸命勉強していたのに、「試験を延期するから、もう1年遊ばずに頑張って」と言われたらどうですか? 「マジか!」と思いますよね。もういいやと投げ出したくなる人もいるかもしれません。誰もが経験する受験勉強くらいのレベルですら、継続していくことは大変なんです。それと比較して想像してみたら、世界のトップで戦うための技術、体力のレベルをキープ、向上させていく日々をさらに継続していくことが、肉体的、精神的にどれだけ大変なことか、少しでも理解していただけるでしょうか。

延期決定後、コメントを発表した内定選手たちの言葉は、ショックはありつつも前向きなものが多く、改めてその尊さを感じました。オリンピック・パラリンピックが1年後となると、その選考がどうなるかは現時点ではわかりません。そして出場が決まったとしても、大会では、良い結果が出ることもあれば、不本意な結果に終わることもあるでしょう。

どんな結果が待っていたとしても、その舞台にたどり着いた選手、そこを目指して戦った選手たちには、リスペクトの念しかありません。東京でオリンピックが開催されるとき、選手たちには心の底から称賛を送りたいです。

 

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。