【免疫とは何か? #3】コロナ重症化の一因とされる「サイトカインストーム」とは?




新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大するなか、免疫のスペシャリストである順天堂大学医学部の三宅幸子教授にその機能をわかりやすく解説していただく特別インタビュー。第3回目の今回は、新型コロナで問題となっている「サイトカインスト―ム」についてのお話です。

■身体にダメージを与えてしまう免疫の過剰反応

——今、新型コロナウイルスに対抗しているのは、もっぱら自然免疫なのでしょうか?

三宅:新型コロナウイルス感染が起こると、数日~14日間ほどの潜伏期間を経て症状が表れ、一部は重症化することがあります。感染当初は自然免疫が主に戦い、その後、獲得免疫が発動し、リンパ球や抗体などにより上手く排除できれば治るということになります。重症化する要因の一つとして、「サイトカインストーム」という病態が起こるのではないかと考えられています。

――サイトカイン……前回も出てきましたね。

三宅:免疫細胞などから分泌され、細胞間の情報伝達を担うポリペプチドです。さまざまな種類があり、免疫細胞と常に情報交換を図りながら、それぞれの活性化や機能抑制に働いています。感染が起こると、炎症性サイトカインが産生されて、他の免疫細胞を招集したり、その働きを助けたりします。ところが、これが過剰に産生されて、身体にダメージを与えてしまうのが、サイトカインストームと呼ばれるものです。

――なぜそのような現象が起こるのでしょうか?

三宅:これが詳しくはわかっていません。どの細胞が、どうして暴走するのかわからないのです。動物実験(マウス)ではウイルスがすごく増えてから少し遅れてインターフェロン(ウイルスの侵入に反応して分泌されるサイトカイン)などが大量に出ると、マクロファージなどが大量の炎症性サイトカインを出すという論文もありますが、あくまでマウスの実験で、ヒトに当てはまるかどうかはわかりません。

――では、どのように重症化していくのでしょうか?

三宅:少し難しいのですが、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)という状態になります。この状態になると、急速に呼吸状態が悪くなります。

——新型コロナの出現によって、これは一大事だとばかりに大慌てして、過剰なまでに反応してしまった。その結果、味方であるはずの仲間がいつの間にか敵に転じてしまっていた、というイメージですね。

三宅:そして、それがどう治っていくのかも、今のところよくわかっていません。SARS、MERSのときに、重症化した人を調べると、血液中にサイトカインがたくさん出ていたことが報告され、サイトカインストームが問題になりました。新型コロナウイルスの感染でも、重症化した人の血液を調べると、サイトカイン量が多いことがわかり、同じようにサイトカインストームを起こしているのではないかと考えられています。新しいウイルスがすべてサイトカインストームを起こすわけではありませんが、新型コロナウイルスは、サイトカインストームを起こす可能性があると考えられています。

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——感染した細胞だけでなく、健康な組織にまで害を及ぼしてしまうので、非常に悪くなってしまう、と。怖いですね。

三宅:なぜ新型コロナウイルスはサイトカインストームを起こしやすいのか、どのような人が起こしやすいのかなどについても、まだわかっていません。そこで治療としては、ウイルス自体を標的にする薬としてインフルエンザやエボラウイルスの治療薬が期待される一方、病態によっては免疫を抑えるような薬を投与することも試されています。

——免疫細胞も新興勢力に対しては、その戦略を見誤ってしまうと、いつの間にか敵にもなってしまうという意味では、あらためて新型コロナウイルスの脅威を実感します。

<第4回に続く>

三宅幸子(みやけ・さちこ)
東京医科歯科大学医学部卒業。順天堂大学付属順天堂医院で内科研修後、同膠原病内科に入局し順天堂大学内科系大学院修了。米国Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital・博士研究員・指導研究員、 国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部・室長を経て、2013年より順天堂大学医学部免疫学教室・教授。

取材/光成耕司