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なぜ筋肉は太くなろうとするのか?<前編>【石井直方のVIVA筋肉!】

“筋肉博士”石井直方先生が、最新情報と経験に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさを発信する連載。今回のテーマは「筋肥大」。まずは、なぜ生物に筋肥大が必要なのかを考えてみましょう。トレーニング理論にも通じる本質的なお話です。

今回は「筋肥大」について考えてみたいと思います。みなさん、最も興味のあるお話だと思います。

そもそもヒトをはじめとする生物には、なぜ筋肉が太くなるという仕組みが備わっているのでしょうか。

本質的なことから言うと、生物の生活環境に非常に大きな影響を及ぼしている要素は、地球上の「重力」です。その重力を受けながら運動しようとすると、それに抗うための力を発揮することが不可欠。普通に暮らしているとあまり意識しないかもしれませんが、私たちはつねに重力に逆らう力発揮をしているのです。そして質量が大きくなるほど“慣性”の影響が強くなるので、その運動を制御するためにはより大きな力が必要となります。

©zinkevych–stock.adobe.com

このような事情から、体のサイズに応じて必要な筋肉量は変わってきます。

例えば、豆腐はサイズが小さければサイコロ状の形を維持できますが、あるレベルを超えて大きくなると同じ形を保つことができなくなります。
これは「スケーリング問題」と呼ばれるもので、最も単純な例で説明すると次のようなメカニズムによります。

一辺が1センチメートルの立方体の体積は1×1×1で1㎤。その一辺が10倍になると、10×10×10で1000㎤になります。重さは体積に比例するので、同じく1000倍になります。ところが、それを支える断面積は縦×横に比例するので、100倍にしかなりません。つまり、サイズの増大に伴う重量を支えるための断面積は、重さに見合って大きくなってくれないという特徴があるのです。
ですから、地上で体を支えたり積極的に動いたりするには、体のサイズの増大よりも、さらに筋肉や骨が発達しないといけなくなります。このことは第2回でもウルトラマンを例にして説明しましたね。

生物は必然的に、小さく産まれて大きく成長します。したがって、成長しつつある体を動かすため、筋肉がさらに太くなろうとするのは自然であると言えるでしょう。力学的な環境(筋肉の増大が必要とされているかどうか)を感じとり、たしかにそういう状況であると判断されれば、筋肉は確実に太くなっていきます。
逆に宇宙のような無重力空間になると、筋肉がなくても運動できるので、エネルギーの無駄遣いを避けるために速やかに筋肉を細くする仕組みも備わっているわけです。

©mashot-stock.adobe.com

ただし、水中の生物の場合は重力の影響が小さくなるので、状況が違います。サイズが大きくなることによる不利益はあまりないので、シロナガスクジラのような巨大な生物も存在することが可能です。しかし、あれだけの巨体を持って地上に上がったら、とても満足に動けないでしょう。

地上では、体のサイズに応じて、求められる筋肉量が変化すると考えられます。体が大きくなるに従って、それを動かすために必要な筋肉量がより増えていくと、やがて「体が筋肉と骨だけ」になってしまうかもしれません。したがって、生きていく上で限界となるサイズはあるはずです。

また、同じプロポーションを保ったまま大きくなることは現実的に難しいので、大きな生物と小さな生物では、体の形が変わってくるのが自然です。仮に人間がどんどん大きくなっていったとすると、あるところで姿かたちが変わるはずです。おそらくティラノサウルスのように重心に近いところから巨大な脚が伸び、下半身の大きさのわりに頭が小さくなるというバランスになることが予想されます。そして体の大半を筋肉が占めるということにならないと、元気に動き回ることはできないでしょう。

「比較バイオメカニクス」という分野の研究によると、ブロントサウルスやウルトラサウロスのように全長30メートル超・体重80トン超にもなるような恐竜は、理論上は地上では動けないという説もあります。なので、四足歩行の巨大な草食恐竜たちは、体の3分の2以上が湖などに入った状態で生活し、浮力によって関節への負担を減らしていたのではないか、とも考えられています。

種によっていろいろな事情はあるにせよ、筋肉が肥大するという現象は、重力に逆らって自在に動くための普遍的な戦略の一つと考えられます。大きな力を出さなければ餌にありつけない、といった理由がなければ、わざわざエネルギーコストの高い筋肉を大きくする必要はないからです。

筋力トレーニングによって筋肉を肥大させることは、そうした生物の適応能力を利用し、地球の重力が増大したかのように筋肉に錯覚させることとも言えるでしょう。

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP

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