世界をまたにかけた野球人が主宰する野球塾②




藤本博史さんは元プロ野球選手で、現役時代はオリックス・ブルーウェーブ(当時)をはじめ、台湾やアメリカでもプレーした経験を持つ。そんな彼が主宰する野球塾では子どもたちにどんな指導をしているのか? 今回はその指導論に迫る。

野球を通じて身につけた「我慢」を伝える熱血指導

 

オリックス・ブルーウェーブの捕手だった藤本博史さんが主宰する野球塾、ピエンサベースボールアカデミーは、兵庫県明石市郊外の住宅街のはずれにある。「塾生」のメインは明日の甲子園球児を目指す小中学生。施設の正面には、これまで甲子園出場をかなえた卒業生たちを祝福する垂れ幕が並んでいる。

 

「将来的にはプロ野球選手が出てくれればうれしいですけどね」と藤本さんは笑う。「塾」なので、藤本さんの仕事は午後から始まる。日によって若干の違いはあるが、午後3時を過ぎた頃から生徒がやってくる。下は幼稚園児もいるが、彼らがやってくるのはもう少し早い時間だ。時には草野球を続けている大人の指導も行なう。

 

「幼稚園児や社会人の方には、できるだけ楽しんでやってもらうようにしています。大人の方の場合は、打ちたいとおっしゃれば、ひたすら僕がバッティングピッチャーやったりします」

 

施設は、バッティング練習の十分にできるだけの広さを備えている。練習場は大きく4か所に別れている。数人が投げることのできるブルペン。ノックには十分な広さの室内練習場に室内打撃練習場。さらにこの打撃練習場の奥にはキャッチボールが2組できるくらいの細長いスペースがある。この施設には全体にわたって照明塔もついており、日没後も練習ができるようになっている。充実した施設といえるだろう。メインの練習場には、子どもをここに通わせている子どもの保護者が練習を見学できるよう、ガラス張りのベンチもある。

 

少子化が進んでいるせいか、スポーツにせよ勉強にせよ、子どもを教え、指導する業界はソフトな指導が主流になっている。「楽しんで、いつの間にかうまくなる」という風潮が幅を利かせる中、藤本さんの指導は、厳しさも交えたものになっている。

 

「大きな声を出す時もありますし、しんどいこともさせますよ。だって、そうでないと上手くなりませんから」

 

叱咤激励は、見学の保護者がいようがいるまいが忖度なしだという。逆に保護者からすれば、その藤本さんの「熱」にひかれてこのアカデミーにやってくるのだろう。

 

無論その厳しさも、相手によりけりだ。アカデミー生のニーズもさまざま。まずはキャッチボールからという者もいれば、甲子園、その先はプロという者もいる。「さらに上」を目指すアカデミー生への指導は必然、厳しいものになる。

 

「指導中は、親御さんの目は気にしませんね。多分、保護者の方との会話も多くない方だと思います。親御さんは大変です。学校が終わってここまで子どもさんを送り迎えしてくださっているんですから。小学校高学年になると、行きは自分たちでバスに乗ってやってきすが、帰りはやはり親御さんが車で迎えに来ます。そう考えると、私たちは親御さんたちの時間をいただいているんです。だからいい加減なことはできません。そういう意味では、目指すものがある子には、その力を伸ばすため、きついことも言います」

 

リップサービスではなく、指導の中身で勝負、というのが藤本さんのスタイルのようだ。 藤本さんは、野球をするメリットをこう語る。

 

「私もこれまでの人生の中で、いろいろ失敗もしてきました。でも、野球をしてきたことで、自信がついているんですよね。今もこうやって自分の人生を歩んでいますから。野球を通じて、私はいいことも悪いことも経験してきました。世の中に出れば、理不尽なことも多いです。そこで大事になってくるのは我慢。野球で苦しいことに耐えた我慢は、社会に出て絶対に役に立ちます。私自身、野球を経験して、性格以上のものを出せるようになったと思っています」

 

いまだに終息の気配を見せないコロナ禍の中、ピエンサも緊急事態宣言後、ひと月半、休業を余儀なくされた。その間も藤本さんは無償で動画による指導を行っていたそうだ。現在は、一度に指導する人数を減らす、分散しての指導など、コロナ対策をきちんととった上で指導を再開している。

 

取材&文・阿佐智

 

ピエンサベースボールアカデミー