スポーツ深読みシリーズ~近代五種【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第132回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

 

今週は不定期でお届けしている「スポーツ深読みシリーズ」。今回紹介するのは“キング・オブ・スポーツ”と呼ばれる近代五種です。水泳・フェンシング・馬術・レーザーラン(射撃&ランニング)という、まったく性質の異なる5種目で順位を競うハードな競技です。いつものようにルールではなく、雑談で使える「へぇー」となる話を紹介しましょう。

 

「近代」というくらいなので、当然「古代」五種もありました。古代五種は紀元前708年の古代オリンピック第18回大会から実施され、走幅跳、円盤投、スタディオン走(短距離走)、やり投、レスリングの5種目で争われました。これに倣い、近代オリンピックの提唱者ピエール・ド・クーベルタン男爵によって、「近代オリンピックに相応しい五種目競技を」と新たに提案されたのが近代五種で、1912年のストックホルム大会からオリンピックの正式種目として採用されています。

 

皆さんがまず疑問に思うのは、なんでこの五種目なの?ということでしょう。確かに水泳に馬術にフェンシング、さらに射撃とランニングとくれば、まったくつながりがないように思います。もちろん適当に選んだわけではなく、この五種目になったのにはハッキリとした理由があります。近代五種は、もともと軍人が自軍の陣地から別の陣地に伝令に走るという、斥候(せっこう=偵察)の役割が競技のベースとなっているのです。

 

伝令のため馬に乗ってフル装備で出発(馬術)→敵と遭遇したら剣や銃で戦う(フェンシング・射撃)→川を渡るときは装備を外して泳ぐ(水泳)→最後は走って味方の陣地に行く(ランニング)。こうしたストーリーのもと、五種目が定められているのです。一見、つながりがないように見える五種目が、実は必然の五種目だということです。

 

水泳の距離はその昔、300メートルに設定されていました(現在は200メートル)。競泳種目にはない300メートルという距離だった理由は、川を泳ぐことをイメージしていたから。ヨーロッパには川幅300メートルくらいの川が多かったことから、この距離だったそうです。こうしたことからも、斥候が競技のベースであることがわかります。

 

馬術で選手が乗る馬は抽選によって決まります。馬術競技では選手は自分の持ち馬に乗りますが、近代五種は主催者が一定レベルに調教された馬を約30頭用意します。そのなかから18頭を選んで抽選で選手が乗る馬が決定します。点数の低い18選手が前半に乗り、点数の高い18選手が後半に乗ります。選手にとっては初めての馬なので事前情報がありません。後半の選手は前半に馬の様子を見ることができるという利点がある反面、馬が前半の競技で調子を崩す恐れもあり、どちらが有利とは一概には言えません。

 

5種目あるためルールが難しそうと思うかもしれませんが、決着はとてもシンプルなのも近代五種の魅力であり特徴です。フェンシング、水泳、馬術のポイントを1ポイント1秒として、最終種目のレーザーランに反映。最後のレーザーランの着順がそのまま順位となるので、決着はとてもわかりやすいのです。クイズ番組の最終問題で大逆転みたいなものと考えてもらえればよいでしょう。

 

レーザーランは、レーザーピストルで10メートル離れた場所から直径6センチの的に5発当てる射撃と800メートル走を交互に4回行ないます。走りの強い選手は一気にタイムを挽回できるので、他の種目で出遅れても大逆転のドラマが生まれることもあるのです。最後まで目が離せない展開と、先にゴールした選手が勝ちというわかりやすさ。これが近代五種の最大の魅力でしょう。

 

ということで近代五種の紹介でした。各種目の詳しいルールなどを知りたい方は、協会のHPをご参照ください。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。