偉大なる指導者、チャールズ・ポリクィンの功績② ~世界に広まったGVTの方法論~




2018年9月26日に享年57歳という若さでこの世を去った、”世界最高のS&C (Strength and Conditioning)コーチ”、ストレングス先生ことチャールズ・ポリクィン。陸上競技のオリンピック金メダリストをはじめ、NFL、NHL、リュージュなどなど、様々な競技のトップアスリートのトレーニングを指導した。

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方法論も、指導した選手の競技数同様、幅広い。具体的なトレーニング方法や食餌、さらには昼寝の仕方など、実に多岐に渡るトピックに関し、記述を残している。数ある業績の中で、最も良く知られているのが、“GVT”こと「ジャーマン・ボリューム・トレーニング(German Volume Training)」だろう。

1970年代にドイツで開発されたトレーニング方法であり、決してポリクィン独自の手法ではない。当時のドイツのウエイトリフティング選手たちが、オフシーズンに実施し、筋肥大を実現していたと伝えられている。

だが、この手法を理論的に世界に広めたことに、ポリクィンの功績がある。インターネットが普及するよりも前のこと、ボストンのジムを利用し、ビジター料金を支払おうとした際、ポリクィンの名を知る係員が、「人生で最も筋肥大に成功した方法を書き記した著者からお金を取ることなどできない」との理由で、料金の受け取りを拒んだというエピソードも伝えられている。

セット数、インターバルの秒数、テンポなどなど、詳細に方法論を紹介していたポリクィンだが、現在、広く行なわれているGVTの基本は極々シンプルなものだ。ボディビルダー諸氏にはすでに常識と思われるが、あらためて概要を簡潔に紹介すると、以下のようになる。

① 1RM(Repetition Maximum:1回だけ挙上できる最大挙上重量)の60%、20回で限界がくる重量をセットする
② 1セットにつき10回行なう
③ インターバル1分で10セット行なう
④ 途中、10回挙がらなくなっても重さを変えずに10セット完遂する
⑤ 可動域を短くするパーシャルレップは使用せず、同じフォームで行なう
⑥ これを8~12週間継続する

途中、挙上回数が7回や6回に減っても重量を下げないのは、同じモーターユニットを刺激するためである。モーターユニットとは、1本の神経とそれが支配する筋線維で構成される運動単位のことで、重量が変わると、動員されるモーターユニットの数も変化する。同一のモーターユニットを短いインターバルで刺激し続け、筋肥大を促すのが、GVTの目的となっている。

単純化されたプロトコルを記載したが、実際のこところ、ストレングス先生は、種目によってインターバルの長さやテンポを変える、4~5週目からを第2フェイズとして各設定を変えるなど、より詳細なメニューを紹介している。例えば、第1フェイズのダンベルプレスであれば、4秒で下げ2秒で挙上し、インターバルは90秒取るなどの例である。

実際に行なってみるとわかるが、初回にこの設定重量で10回10セットを完遂するのは不可能だ。仮にできたとすれば、それは重量設定その他、何かが違っていると疑ったほうが良い。

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また、原則として、1つの部位につき実施するのは、メインとなる1種目のみ。あまりにも厳しいためだ。ストレングス先生は、各部位2種目という設定をしているが、セット数は3セットのみであり、補助的に行なう格好だ。

なお、ストレングス先生推奨のパーツ分けは、以下の通り。

1日目:胸と背中
2日目:足と腹筋
3日目:オフ
4日目:腕と肩
5日目:オフ

ウエイトトレーニングには、様々な手法が存在する。ポリクィンは、多岐に及ぶ方法論を研究し世に紹介したが、その中でもとくに良く知られ、広く実践され、筋肥大効果を実感しやすいのが、このGVTと言えるだろう。

ただし、シーズン中のアスリートのパフォーマンスやストレングス向上など、筋肥大とは異なる目的には向かないことに留意しておきたい。

既述のように、ポリクィン自身、GVTに詳細な設定を施しているが、後進の研究者やボディビルダーなどによって、様々なバリエーションが開発され、紹介されている。GVT未経験の諸氏は、基本形を試し、目的に合致する発展形があれば、それらを取り入れてみると良い。きっと、ストレングス先生の功績の大きさを痛感することだろう。

 

文/木村卓二