多くの市民ランナーをサポートするクラブチーム「e-Athletes」ヘッドコーチの鈴木彰さんに、コロナ禍にも対応した最新ランニングノウハウを伝授していただくこの連載。第5回では目標を明確にすることの重要性を学びましたが、マラソンはランナーにとって目指す舞台のひとつになります。第6回は、レース挑戦の際に覚えておきたい基本とマラソンの面白さについて教えていただきました。
「ランニングはしっかり練習すれば、納得のいく結果が必ず生まれる」
マラソンのレースに出るためには、ある程度の距離をそれなりのペースで走れるようにならなければいけません。それができないままマラソンに出るのは安全とは言えず、走り終わった後にとんでもないダメージを受けてしまいます。中には走り始めて、2ヵ月くらいでフルマラソンを完走してしまう人もいます。ただ、走ることはできても、その後1ヵ月は足の痛みがとれないことも普通にあります。
ランニングを始め、レース出場を意識するようになった人が目標を掲げるのはフルマラソンの完走だと思います。人生で一度はフルマラソンを完走したいと考える人は多いようで、マラソンを1回完走したらランニングをやめてしまう人が多いのも事実です。これは非常にもったいないことだと思います。ランニングが本当に面白くなってくるのは、マラソンを一度完走した後からだからです。5~6時間かけて、時には歩きながらフィニッシュして完走メダルをもらって満足……ではなく、「なぜ途中で歩いてしまったのか」「もっとペースを上げることができたのではないか」と、課題を見つけてそれを克服していく、できなかったことができるようになるという面白さです。
マラソンはタイムがハッキリ出ます。それは自分にとっての通信簿のようなもの。努力した成果が確実に数字に表われるのは嬉しいものです。仕事などでは努力しても評価されないことがあると思いますが、ランニングはしっかり練習すれば、必ず自分にとって納得のいく結果が生まれます。健康志向で長く続けている方も、レースに出てタイムを伸ばす楽しみを覚えていく方は多くいます。志向が変化していくのは、そこに面白味があるからでしょう。
レースの中には、一流選手しか出場できない大会もありますが、誰でも参加OKの場合がほとんどです。この時間で走り切れば大丈夫という制限時間が非常に緩和されていますので、9割の大会はどなたでも参加できると思います。コロナ禍以前は、全国で行なわれるレースの数は約3000大会と言われていました。これだけ開催されていたら、1年間で自宅から楽に行ける範囲のレースが2つや3つはあると思います。小規模な大会でもネットで探し始めるとけっこう見つかります。いきなりフルマラソンではなくて、5㎞や10㎞という種目がありますので、そういったところから段階を踏んでいくのが望ましいです。やはり大会の雰囲気は独特なので慣れはどうしても必要になってきます。
初心者や健康志向の方がゆっくり走るぶんには、それほどダメージはないものの、フルマラソンは膨大な体力を消耗します。ここはしっかりと理解する必要があります。男子マラソンの川内優輝選手が、毎週のようにフルマラソンを走って、オリンピックや世界陸上を狙えるような選手になったことで、いくらでも走れるのではないか?と勘違いしている人がいるかもしれません。ただマラソンを走るのと、記録を狙ってマラソンを走るのは、消耗はもちろん、すべての面でまったくの別モノです。市民ランナーの上級者や実業団選手は、基本的に2~4ヵ月に1本くらいの間隔で走っていますが、記録を狙う場合は、期間を空けることも必要になってくるということです。
取材・文/高野昭喜
※第7回は最終回です。奥が深いランニングをもっと楽しむためには!?
鈴木彰(すずき・あきら)
NPO法人あっとランナー代表理事、e-Athletesヘッドコーチ。日本体育協会公認陸上コーチ。東京学芸大学教育学部卒。中学から本格的に走り始め、高校・大学・実業団を経て1989年に指導者に転身。走歴40年、指導歴は30年を超え、大学生アスリート・トップ市民ランナーから、初心者、そして中高年ランナーを多数指導する傍ら、自らも生涯現役を標榜して走り続けている。1985年に初マラソン。ベストタイムは2時間20分43秒。日本陸連普及委員、ランニング学会理事を歴任し、2001年にクラブチームを形態としたランニングスクール・e-Athletesを設立した。