今回は、背中に注目してみたいと思います。
体の前面は胸部と腹部とに明確に分類されますが、後面は解剖学的には上背部と腰背部等に分けられるものの、一般的には両者を総合して背部という大きなくくりでとらえられています。つまり、それだけ大きな筋肉であるということです。
ところが、それは自身の目に届かない真後ろにあるため、ふだん意識することはほとんどありません。同じ後ろ側にあるお尻と比べると、注目度は明らかに低いと言わざるを得ないのではないでしょうか。
自分の背中は一体どんなフォルムをしていて、筋のボリュームはどのくらいなのか……。おそらく、本格的に筋トレに取り組んでいる人以外、そこに関心が及ぶことはほとんどないのが現状ではないでしょうか。そう考えると、体のメンテナンスはやはり自身の目で確認できる体の前側が中心になってしまうのは仕方のないことなのかもしれません。
そう言えば、ヨーロッパの男性が日本を訪れたとき、すれ違う日本人女性を見ると一様に、「皆、お化粧ばっちりしているね。日本はまさに”お化粧大国‟だな」と感心するそうです。果たして、喜んでいいのか、皮肉ととるべきなのか……。複雑な思いになってしまいますね(笑)。
自分以外の人の背中は、自由に観察することができます。すると、これほど雄弁にその人の体の状況を物語っている部位は他にはないのではないかと思うくらいです。ところが、ほかの人から見れば雄弁に映る背中であっても、自身にとってはとても寡黙な存在で、自分にはほとんど何も語りかけてはくれません。そういう意味では、背中は無防備ゆえにとても影響受けやすい部位であるとも言えるでしょう。もし背中との間に意思の疎通があるとすれば、僧帽筋下部あたりにまで疲労が広がっているということを肩こりを通じて感じさせてくれることくらいでしょうか。
よく「背中で語る」と言われますが、背中は自分以外の人からしか注目されず、かと言って体の後ろ側には目も口もありません。だから、もう一人の自分が背中を通じて「私の背中、猫背だから何とかしてほしい。気が付いているのなら私のご主人様に指摘してあげてくれないかしら」と、切実な心の叫びとして訴えているのかもしれません。
ただし、背中の声を聞いたからと言って、方法を間違ってしまっては元も子もありません。例えば、猫背改善のためには、肩甲骨が開きすぎている(外転)という特徴が見られるので、菱形筋等をターゲットにトレーニングによって鍛えるという方法を選択する人、あるいは勧める人をよく見かけます。もちろん、それは間違いではないのですが、実は腕の緊張が強く、結果、外方向に(正しくは前方に)引っ張られている人が多いということを忘れてはなりません。
つまり、まずは腕の緊張を解いてあげることが求められるにもかかわらず、背中だけ鍛えても心地よい反応は見せてはくれないのです。大きい筋肉だからと、原因は背中そのものに潜んでいると考えられがちですが、自身にとっては寡黙で無防備な部位なだけに、実は想像以上の忍耐を強いられている部位であることも理解しておきましょう。だからこそ、第三者の目に救いを求めているのかもしれません。
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取材/光成耕司