コロナ禍の現在、運動することの重要性が今さらながらのように注目されています。こういった傾向は、かつてスポーツ界においてアスリートのコンディショニングに関わってきた私としてもとても喜ばしいことだと感じています。
ただ、本コーナーでもたびたび述べていることですが、運動の前にみずからの体の状態を知ったうえで取り組むのと無関心のままに取り組むのとでは、その効果に大きな違いがある、このことをまず心得ておいてほしいと思っています。
例えば、立った姿勢における足底の感覚はどうか、あるいは椅子に座ったときの座骨の位置は均等かなどをまず感じてみてください。
体を支えている接地面への荷重のバランスに左右差があったり、捻じれ(回旋)が生じていたりすると、エクササイズのスタート段階から、そもそも‟ズレ” (ボタンのかけちがい)を伴ったうえでの動作になる可能性が高くなります。すると、たとえどんなに素晴らしいエクササイズを行なっても、長続きすればするほど、その‟ズレ”をますます強化してしまうという悪循環に陥ることになるのです。体のためにいいと思っているエクササイズがむしろ不良姿勢を安定化させてしまうというのは、これ以上の本末転倒はありませんね。
チリやホコリは、お掃除を怠ると知らず知らずのうちにが目立つようになってきます(少々の汚れは気ならないという人もいるかもしれませんが)。体のメンテナンスも、そういう意味では日々のお掃除と同じかもしれません。ただし、そのお掃除も適当にやってしまうと、チリやホコリは残ったまま。体もそれと同じで、チリやホコリを放ったままにしないよう努めることが大事ではないでしょうか。
そこで、体をニュートラルポジション(チリ、ホコリのない状態)に戻すためのセルフチェック(お掃除)の一つの方法として、大の字になって仰向けに寝てみることをお勧めします。
その際、肘はちゃんと伸びていますか? おそらく上腕二頭筋(力こぶ)あたりが緊張しているという人が少なくないのではないでしょうか。それも体の‟ズレ”を象徴する一つ。また、肩甲骨は床にぺったりと着いていますか? 床から肩が浮いている、特に片方だけが浮いている感覚を覚える人は、前回述べたように、呼吸時に背中側への肋骨の動きが制限されて空気が入りにくい状態になっているかもしれませんし、体幹の捻じれ(回旋)が定着しているサインかもしれません。このように、大の字になってみるだけで、体の状態がいろいろと見えてくるのです。
ところで、対面でおしゃべりしていると相手の体の左右への傾きはよくわかりますが、体勢(全体的なバランス)はどうなっているかまではわかりにくいものです。相手と夢中になってしゃべっているときに、相手の姿勢やそもそも自分の姿勢はどうなっているかしっかり意識できている人は少ないのではないでしょうか。
ところが、コロナ禍においては、Zoomなどのビデオ機能付きのリモート手段によって自身の顔出しも可能となり、相手に語り掛けながら、一方でみずからの顔や姿も確認できるようになりました。最初のうちは違和感を覚えたものですが、そういうことであれば、少しカメラを引き気味にして、相手と比較しながら自身の姿勢をチェックする機会にしてもいいかもしれませんね。
でも、ついついこういうことを考えてしまうのは、私くらいかもしれませんね。
山本康子(やまもと・やすこ)
鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、コンディショニングセラピスト。施術キャリアは30年。日本代表チームのトレーナーとしてトップアスリートのボディコンディショニングを手掛けてきた。その間、約6年に渡り外国人トレーナーと共にヨーロッパなど各地を転戦した経験によって、日本にはないスピリットを強く感じ、施術テクニックはもちろんのこと、人として現在もなお進化すべく努力を続けている。2004年に、アー・ドライ治療院、2013年に筋膜リリース専門のスカンディックケアを開業。施術者の育成と労働環境整備にも力を注ぐ。
アードライ治療院&スカンディックケア
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取材/光成耕司