渡辺華奈選手のハートの良さ【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第161回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

 

さる4月3日(現地時間4月2日)、VITUP!連載でもおなじみの格闘家・渡辺華奈選手が、アメリカの格闘技団体・ベラトールの大会に出場。ランキング上位のアレハンドラ・ララ選手を相手に判定2-1で勝利を飾りました。昨年11月の連載スタートから、ネタの打ち合わせや撮影で毎月顔を合わせているため、自分のことのように嬉しくなりました。

昨年はコロナの影響もあって試合ができず、渡辺選手にとっては約1年3ヶ月ぶりの試合。さらにアメリカ入国後はPCR検査の結果が出るまでホテルの部屋で隔離。陰性が出た後も専用のトレーニング施設のみでの練習。ホテルの施設利用は飲食のテイクアウト以外禁止……と、かなりストレスが溜まるような環境での試合を強いられました。

 

こうした環境での試合については、本人に連載でつづっていただきたいと思っていますが、これまでの試合とは明らかに状況が違ったことは間違いありません。そうした環境の変化や試合のブランクの影響もあってか、試合の立ち上がりはパンチをもらう場面もあってヒヤリとしました。それでも2ラウンド以降は落ち着きを取り戻して、グラウンドで相手を圧倒。本人は「課題しかない」と反省しきりだったものの、良くないなかでも結果を出した事実が何よりも大きいと思っております。

 

これで渡辺選手の戦績は10勝1分とデビュー以来の無敗記録を更新。ベラトール女子フライ級のランキングも4位に上昇し、タイトル挑戦への期待も高まっています。格闘技の実力はもちろん、その肉体、フィジカルのすごさは誰もが認めるところ。個人的にはそうした部分に加えて、ハートの良さが彼女の強さを支えていると思っています。

 

「ハートの強さ」ではなく「ハートの良さ」です。渡辺選手は強くなることへの欲は人一倍大きく、日々ハードなトレーニングをしています。その一方で結果に対する欲の大きさを感じることはありません。これは彼女が歩んできた道によるものであり、他の選手との大きな違いだと思います。

 

連載第1回でも書いていたように、渡辺選手は柔道家としては引退勧告(コーチへの転身要請)を受け、一度は勝負の世界から身を引くことも考えた過去があります。つまり、選手として「一度は終わった」という思いがあるため、格闘家としていられる環境、試合ができることへの感謝の思いが大きく、結果だけに一喜一憂することがないのです。ある意味、達観しているようなこの気持ちが「ハートの良さ」であり、日々の練習への追い込み、試合での振る舞いにつながっているように感じています。

 

実際、試合前でも彼女はピリピリした様子を見せることもありません。今回の試合が決まった後は、調整に支障がないようにと連載を休載しても構わないと伝えましたが、「普段通りで大丈夫です」と即答してくれました。そして出発の少し前に実際に会ったときも信じられないくらい穏やかで、ここでもハートの良さを感じました。

 

渡辺選手は格闘家転身後の快進撃を、本来ならなかったはずの舞台という意味から「ボーナスステージ」という言葉で表現し、「負けたらどうしようと不安になることもない」と語っています。それは闘いぶりをみれば一目瞭然です。ベラトールとの試合契約はまだ複数試合あるため、タイトル戦まで勝ち上がる可能性がある一方で、初めての敗北を喫する可能性もあります。どんな結果が出ても彼女はすべてを力に変えて進化していくことでしょう。これから先の闘いも非常に楽しみです。

 

ちなみに連載「デートするならジムがいい」では、読者の皆様からの質問も受け付けているので、試合のこと、トレーニングのこと、なんでもリクエストいただければと思います。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。