『はじめの一歩』(作 / 森川ジョージ・講談社)は、1989年から現在まで「週刊少年マガジン」にて連載中のボクシング漫画の金字塔。
いじめられっ子だった主人公・幕ノ内一歩(まくのうち いっぽ)がボクシングと出会い、チャンピオンへ登り詰める過程を描いた人気作品だ。
主人公の一歩だけではなく、所属ジムの会長・鴨川源二(かもがわ げんじ)や一歩の先輩で世界チャンピオンの鷹村守(たまむら まもる)。同じく先輩の青木勝(あおき まさる)と木村達也(きむら たつや)など、個性豊かな登場人物のストーリーも見どころとなっている。
そんな中今回、名言として取り上げるのは、ジムの会長・鴨川の言葉。教え子の鷹村が初めての世界タイトルマッチに臨む際、鴨川が送った言葉は作中屈指の名言とされている。
タイトルマッチに臨むにあたり、鷹村は壮絶な減量と戦っていた。『ボクシングだけには嘘をつきたくない』と一切手を抜かず努力に励む鷹村だったが、絶対的強さを誇る王者を前に下馬評では不利とされた。どれだけ努力しても、勝負には敗北の可能性があることは紛れもない事実なのだ。しかし、それでも鷹村は戦いへ挑んでいく。
そうした日々を過ごし、遂に迎えた世界タイトルマッチ。試合直前の控室、鴨川は鷹村に表題の言葉を贈った。
「努力した者が全て報われるとは限らん。しかし、成功した者は皆すべからく努力しておる」
それは教え子の努力を見た、鴨川なりの魂のエールなのだろう。スポーツ選手のみならず、何かに打ち込んでいる人であれば心を奮い立たせずにはいられない。
成果を追い求める限り、必ず努力が必要になる。そして、その積み上げはむなしくも失敗に終わることもある。しかし、成功者の陰には必ず努力があるのだということを鴨川は教えてくれる。成果を追い求める者にとって、その言葉は力強い道標となるだろう。
結果として鷹村は前評判を覆し、絶対王者を破って世界チャンピオンに輝いた。その雄姿は新たな道標となり、後輩の心にも熱く刻まれていく――。
スポーツ漫画から学ぶこと、勇気をもらうことは多いのだと思う。競技へ情熱を燃やしたいときや、スポーツに限らず何かに本気で取り組みたいとき。
そんなときは物語の力を借りて、自らの心を奮い立たせてはいかがだろうか。
文・森本雄大